第17話 2009年12月18日

2014年9月14日      STORY FOR 5 YEARS      Tagged with:



九月の中頃に厚木店がオープンしてから、三ヶ月が経つ。今月の頭に四店舗目となる町田店ができ、予定通り僕が店長を務めることとなった。計画よりは少々遅れてしまったものの、これで無事、当初の目標だった「一人一店舗」が達成されたわけである。

しかし、オープンが決まった時、手放しで祝福するようなムードは僕たちにはなかった。八王子店が異例の販売数とともに開業してから半年、各店舗の売上げは減り続けていたからである。

 

そもそもの話をすると、二店舗目の昭島店の時点で八王子店ほどの売上げには到達していなかった。しかしこのときの僕たちは、売り上げ低下に対する危機意識自体をほとんど持っていなかったと言える。

理由は幾つかある。そもそも昭島市の人口は八王子の1/5ほどしかないし、商圏が若干被っている。なにより、いくら冷めた状態で提供しているとは言え、やはり夏に鯛焼きは売れないという弱みがある。それでもそこそこの売れ行きが保たれていたため、僕たちはとにかく、暑さが落ち着いて売上げが回復するのを待ったのである。

同様に、その直後開店した厚木店もオープン時の勢いは長くは続かなかった。残暑も厳しかったので致し方なし、という当時の僕たちの見解は楽観と言うよりもむしろ、現実から目を逸らしていたと言った方が近い。

 

 

売上げの低下に伴ってか、この三ヶ月はなんとなく、チーム内でも暗いムードが続いていたように思う。

十月に入る頃、ぼくはオープンしたばかりの厚木店で琢也君の手伝いをしながら、四店舗目の物件探しと資格の勉強をしていた。資格というのは旅行業の起業に必要な専門の国家資格のことで、試験の申し込みの際に一番暇そうだった僕が、流れで受験をすることになっていたのである。今年の一発合格率は15%とやや低めだったが、十一月に発表があり無事合格していた。四教科中二科目が満点という快挙である。

 

さて、そんな三足の草鞋を履きながらの厚木生活を終え、久しぶりに八王子に帰ってきた僕は家について驚いた。

 

「おかえり」「おかえり〜」

 

まず、本間君もミヤも声が暗い。四人で生活していた頃は帰れば誰かがリビングに居たものだが、今は電気すら点いていない。二人の声はそれぞれの部屋から聞こえて来ていた。

 

その後部屋から出て来た二人に最近の様子を聞くと、一日の売上げが当初の1/4ほどに落ち込む事も多く、もっと働きたいアルバイトさんを早めに上げたり、一定期間休ませなければならないのが精神的に辛いのだという。 それに(歩合で日給が決まるので仕方ないのだが)、自分たち自身、労働条件を時給に換算すると最低賃金を遥かに下回っていることも多く、やる気が起こらないのもまあ自然な成り行きではある。

 

僕が話を聞いたところで何も解決はせず、むしろその倦怠感は僕も含めて、たい焼き屋以外にも色んな方面に支障を来していた。勢いが止んで停滞した空気は、一方で着実に僕たちの焦燥感を煽りながら、じわじわとストレスをかけていった。

 

 

ある日、僕が町田店オープンのための準備をしていると、ミヤからメールが届いた。宛先欄には本間君と琢也君の名前もあったので、二人ともそれぞれの店舗で受け取っていることだろう。宛先こそ僕たち三人に向けてはいたが、「最近のわたしたちに、違和感があります」と書かれてはじまったそのメールには、本間君の仕事の仕方への疑問がびっしりと書かれていた。

 

メールを開いて思う。内容はさておき、メールを用いてのこのような連絡はやや粗っぽいというか、一方的で攻撃的すぎる。だからこそ単純な抗議には向いているのだろうけれど、少なくともこれに本間君が反論し始めると埒が明かない。お互いに時間を置いて返信出来る分、揚げ足をとってあげつらい合い、元々の論点が分かりにくくなるのだ。そうなるともう建設的な議論には発展しない。

本間君に電話をしてその旨を伝えると、「琢也を厚木から呼ぶのも大変だから、今夜三人で直接話そう」ということになった。

 

仕事が終わってから三人で外で会い、ミヤにメールの内容を順を追って話してもらう事にした。ただなぞるだけでももう一度口に出した方がいい。有耶無耶にしないため、というのもあるが、話し方の調子や話題の逸れ方、またそこに適切な質問を投げることで本来の主張が見えてくる。

流れが流れなので、進行は僕が務める事にした。浮かび上がってきたのは、売り上げの下がったたい焼き屋に関する本間君の関心の低さとその不誠実さ、そのことが共同生活も含め全体の士気を下げているし自分たちに失礼だという旨の不満だった。

 

確かにここ最近、本間君は店舗の管理も、生活の様子も乱雑であった。店舗のことは一見すると飽きているようだったし家の事も自分で率先してやることはなくなっていた。口うるさく言われるのを嫌がる本間君には問わず語らず、誰かがいつもそれを肩代わりをしていた。信頼関係があるからでは無く、感情のぶつけ合いが面倒だったからだ。それが積もり積もったということだろう。

 

そのように用件を整理し終えると、ただ話を聞いていた本間君がゆっくりと口を開いた。

 

「俺は、今まで仕事と私生活を一緒に考えてたところがあったと思う。今までのたい焼き屋も楽しくなきゃ嫌だったし、どうやって楽しくしようかと思ってた。これが『仕事』だっていう意識ははっきり言って薄かったと思う。それが良いか悪いかは別として、そのことがメリハリをつかせづらくしてた。だから目を逸らしてた部分もあったと思うし、 その一方でミヤは頑張ってて、そこに変な話、引け目みたいなものもあって、それからも多分、無意識的に目を逸らしてた。それに、メール貰って気づいた」

 

今度は僕とミヤが黙って聞く。

 

「結局、踏ん切りつけて割り切らなきゃいけない。仕事が楽しくなかったとしたら、辞めるか、それでも本気でやるしかない。楽しくない事はやらないって選択肢もあるし、俺はずっとそうしてきた。 でも、考えたんだけど、今はやる。思い詰めさせてしまって、申し訳ない」

 

ミヤも納得したようで、しかし表情は緩めず「お願いします」と一言だけ言った。その辺が落とし所のようだったので会計を頼んで店を出た。

 

 

またある時は、各々ただ惰性でタスクをこなすだけになっていた世界一周に関して本間君が疑問を投げかけた。

 

「俺がやりたいのって、やりたいって言って来たのって、中身の入ってない袋だけ用意して、はいどうぞって渡すものなんだ。全部準備された旅なんて面白くもなんともないじゃん。とにかくなるべく手を加えたくない。でも気がついてみれば今、なんでもかんでも用意しようとしてる。気持ちのいい旅ってそうじゃない。みんなで迷走してんだ。だめだ、考え直そう」

 

うん、確かにそうだ、その通りだ。どうして気付かなかったんだ僕たちは、自分たち自身ぜんぜん楽しくないじゃないか。皆がそれに頷き、納得し合った。

 

 

そして、僕はだんだんとこういったやりとりに辟易していった。

 

ミヤの抗議と本間君を反省を取り持つ一方で、本間君の立て直しの主張にうんうんと頷く一方で、青春ドラマみたいなその盛り上がりに一種の嘘くささを感じて、頭の一部だけが急激に冷めていくようだった。そうだそうだ、やるしかないんだ!と思いながら、ああ、なんて下らない話をしてるんだろう、と思っていた。

更に言うと、ミヤの抗議の時からだと思う、「楽しくなきゃ嫌だ」なんてこの期に及んで堂々と言えてしまう本間君の自分勝手さにちょっとした不信感を覚えていたのだ。そんな次元で言い争いが起こることが馬鹿らしかった。僕は、どうしようもない自分たちの偽物感に嫌気が差していた。

 

しかし、みんなが今のたるんだ空気をなんとかしようと不満の言い合いになる一歩手前で踏ん張っているというのに、そんなこと言えるはずも無い。結果、僕のミーティングでの口数だけが次第に減っていった。

 

 

そんな僕の態度は、それから何回目かのミーティングでついに取り沙汰された。

 

「あーっ、もう気持ちわりい!」

 

「騒いだって仕方ないじゃん。言っておくけどこっちだって気持ちわるいわ」

 

ミーティングの効率の低さや予定調和な決定など、実のない会話に終始煮え切らない態度をしていた僕に本間君が怒りを露にした。

たい焼き屋にしても世界一周にしても、その計画性の低さを誰もが認めず、無理矢理に取り繕われているだけのように僕には見えた。本間君の進行も現実味に欠けるわ用意は不十分だわで、反論したらしたで嫌な顔をするのが分かっていたので、それも面倒で「好きにすれば」という態度でいた。

 

「もう!ふたりとも」

 

僕と本間君がそんな具合だからミヤが僕たちを制止した。僕たちは目を合わさずにお互い黙っていた。

なんだか突然に全てが嫌になった。つーか気持ちわりいとかそうやって自分の感情さらけ出せばすっきりすると思ってんじゃねえぞと心の中で毒づいていた。

 

「ただいま〜」

 

そんな折、アメリカから一時帰国して僕たちの家に居候中だったミヤの兄、ヒロさんが帰って来た。

 

「ん?」

 

リビングに着くなりヒロさんは不穏な空気を感じ取ったらしい。彼は僕たちに質問を投げかけながら矢継ぎ早に話し出した。

 

「なに?いっしーとひろ(本間)が喧嘩してんの?え、ああ、計画性がない割に体裁だけ整えてるその嘘っぱちな感じが気にくわないと。うんうんわかるわかる。んでひろは?まあそうだよね。別に嘘じゃないしね。ていうか計算とかより前に、今のこと見てしか考えられないタイプだからね、俺と一緒で」

 

僕は客観的に解説されることで、擁護されることでかえって、自分の狭量さを暴かれるような気持ちになった。斜に構えて文句を言っているだけで現状を解決していないのが急に恥ずかしく思えて来る。自分の非力ささえ認められていないただの不貞腐れだと突きつけられているようだ。ヒロさんはもしかしてそれも見通して話しているんじゃないかという気さえしてくる。

 

「でもさ、あれでしょ、君らたい焼き屋で貯めたお金で世界一周行こうとしてるんでしょう。たい焼き屋だよ?世界一周して起業しようとか本気で言ってんだよ?いいじゃん、すげーバカみたいで」

 

そういってけらけらと笑った。その笑い方の痛快さに、聞きながら僕もなんだかばからしくなってしまった。そしてなによりもヒロさんがぼくたちを、そのどうしようもなさも含めて応援してくれているんだということが深く伝わって来た。

 

ヒロさんのお陰もあって、その後本間君とは率直に意見を遣り取りすることができるようになった。

 

ただ、取り直しはしたが、一度渦巻いた感情というのはそんなに簡単には消し去れないものだ。僕だけの話ではない。店舗の売り上げが下がる程それをなんとかしようと尽力する僕たち三人と、それを見放して別行動取る本間君とでは、距離は開かずとも常に対岸にいるような関係だった。

 

 

とにかく、そんな三ヶ月だった。暗い雰囲気が続いていることは、みな口には出さずとも感じ取っていた。今月に入り、そんなムードを打ち砕く為にも人口の多い町田市での開店で起死回生を、と奮い立ちはしたものの、オープン後数日間の冴えない売上げを見た後に再起の可能性を主張する者はだれもいなかった。

 

九月ならまだ分かるが、今は十二月。売上げの低下が季節のせいでも人口のせいでもない事は誰の目にも明らかだった。こうなってから、僕たちははじめてそれを言葉にした。「白いたい焼きはすでにブームの終わりに向かって収束を始めている」のである。

 

八王子店を出した時に都内では三店舗しかなかった白いたい焼きの店は、この秋までに200店舗以上に増えている。どこでも買えるとなれば、いくら美味しくても購買欲求は下がる。珍しさの価値が一般的に『消費』された状態だ。

現在でもなんとか並みのたい焼き店かそれ以上ぐらいの売上げは保っているものの、今後数字は更に下がる。資金的にも精神的にも、すがることのできる希望はこれでほとんど潰えてしまった。

 

 

そんな頃合いに本間君から全員に当ててメールが届いた。至急全員で話したい事がある、というのである。

 

一日の営業を終え僕が家に帰ってリビングに向かうと、すでに三人がテーブルを囲んで座っていた。琢也君もこの緊急の招集に厚木から駆けつけている。時間は21時を過ぎたところだった。荷物を置いて僕が席に着くタイミングを見計らって、本間君が静かに切り出す。

 

「あのさ、宿、の話なんだけど、やっぱり俺らがやるとしたらこれなんじゃないかな、と思うんだ」

 

あまりに突然だったことに加えて仕事終わりの疲れもあってか、僕はその言葉をどう飲み込めばいいのか、全くわからなかった。他の二人も黙って次の言葉を待っているようだったが、その表情に困惑の色が見て取れた。

 

それにしても、“宿”とはどういうことだろう。たしかに「宿をやろう!」という話が今まで何度か話題に上った事はあった。旅行業で起業するに当たって、「日本中のお気に入りの宿を繫げられたらいい」とか「どうせならその中で一つ、古民家でも使って自分たちでも宿やろうよ」とか、そんな話だ。でも、所詮その程度である。

具体的ではないし、僕にとってはあくまでも、雑談の一つに過ぎなかった。今まで散々生まれては消えた「こんなのやったら面白いね」「それいいね」で終わる、あるかもしれないしないかもしれない将来の断片、ただのフラッシュアイデア。正式な議題として上がるものではなかった。

 

「宿…って?どういうこと?」

 

口を開いたのはミヤだった。僕も同じ気持ちである。琢也君もきっとそうだろう。あれこれと推測する前に、僕たちの前に浮かんだのは、大きな疑問符である。

 

本間君はうん、と頷いて答える。

 

「バッパーってこと。宿って、泊まる先での同じ旅人との交流が面白いのに、日本にはないからさ。旅しづらいよね」

 

どうやら質問の意味を取り違えているようだった。

バッパー…本間君が旅していたオーストラリアではバックパッカー達が泊まる宿をバックパッカーズ、縮めてバッパーと呼んでいるらしい。日本やアジア圏ではゲストハウスとも呼ぶらしいけれど本来の定義とは違うということだが、とにかく聞きたいのはそのことではない。「バッパーをなぜ、いつ、どうやってやろうと言う話なのか」「旅行業とはどう結びつくのか」ということだ。

 

それに、本間君の意図はまだ分からないが、今回の急な招集に先ほどの口ぶりを併せて考えると、まるで宿の方を主軸に据えるような言い方ではないか。今まであれほどやりたいと言ってきた旅行業を捨てて?しかも、自分たちが将来何をするかについては、世界一周中で自分たちの理念を掴んでから組み立てようという話だったはずだ。なぜ、どうして突然にそんなことを言い出すのだ。

 

琢也君とミヤもよく分からないと言った表情で、場合によっては「また勝手な事を」とでも言い出しそうな雰囲気である。正直に言って、資金獲得の目標を達成する為に毎日店舗の事に向き合っている僕たちにとっては、突然将来の話を持ち出されても寝耳に水というか、確かに勝手だという印象はどうしても拭えない。

 

さあ、もう十分わかったでしょう、といった風に本間君が話を戻す。

 

「前から言ってたけど俺にとって旅=宿である部分は大きい。しかも今政府が外国人を日本に呼びこむキャンペーンを政策として立ててる。 日本を観光立国しようとしてんだ。」

「京都の方でも今、日本に昔からあったユースホステルや民宿・旅館の形じゃなく、 “バックパッカー”が出来始めて、しかもネットワークで商業的に展開しようとしてる。」

「俺たちの友達でも宿作りたいとかゲストハウスやろうとか言ってる人がいくらでもいるぐらいだよ? 絶対今流れが来てる。これに乗らない手はない。というか今からでも遅いかもしれない。 世界一周から帰ってきて、はい、バックパッカー広まってましたってことだって十分ありうるよ。」

 

続けざまに話す本間君はつまり、旅行業ではなく宿業をやろうと言いたいようだった。

そして同時にここまで聞いて、なぜ突然にそんなことを言い出すのかという疑問が解けた。本間君はある種の後ろめたさからなのか、はっきりとは言わなかったけれど、その発言には一つの可能性というか不可能性が十分に含まれていた。果たしてみんなは気付いたろうか。

 

僕は本間君の顔を伺う。疑問に満ちた僕たちの気配を感じ取ってか、本間君の表情はまるでわざと真面目さを演出しているみたいに落ち着き払っていた。信念ここにあり、といったような顔が今は余計に戸惑いを生む。

ならば、と僕は思う。いっそ、今ここで最後まで掘り下げてしまった方がいい。隠さずに議題に上げた方がいい。僕は頭の中で慎重に組み立てた言葉を口に出した。

 

「…ということは、世界一周に行かないという選択肢も、あるってこと?」

 

琢也君とミヤの顔が上がる。本間君は真っすぐ僕を捉えたままで、少し間を置き答えた。

 

「うん、あるね」

 

 

うん、あるね、じゃないだろう、何を決めて来たような顔でそんな大事な事を言ってるんだ、という二人の文句が聞こえてきそうだった。もちろん僕にもその気持ちがある。

 

そこから、堰を切ったようにミヤと琢也君からの反論が始まった。

 

「いやいやいや。そんな、今から行かないって、参加者はどうなるの?そんなの勝手すぎるでしょ。責任放棄だよ。自分の生活を変えて参加を決めてくれた人だっているのに」

 

 世界一周に一緒に行きたい人を募集したところ、これまでに僕たち以外に五人が集まっていた。ミヤは世界一周企画の中心人物でもあるため、この一年、企画書を作ったり参加者と連絡をしたり、参加者と連絡を取り続けたりしている。そこにかけた時間があって、思いがある。

ただ白紙になるだけでなく、本間君の気持ちを具現化しようと思って組み立てていたのに、お互いの気持ちが強くあると信じていたのが軽くあしらわれたようで悔しかったのだと思う。裏切られたような気持ちだろう。

 

「それに、お前の言ってた思いの部分はどうするん?大事なものがあって、それを見つけるための世界一周やん。そりゃあ、普通なら世界一周なんて俺が反対する立場やけど」

 

琢也君は世界一周が決まる前、そんなことしても仕方がないと主張する立場だった。しかしこうして反論をするのは、琢也君自身、長い時間みんなで作り上げてきた企画に心が傾いているからだろう。 仲間と事を成し遂げることに人一倍の憧憬があることも僕は知っている。本人はそんな事無いと言うだろうけれど。

 

本間君は二人のそれぞれの意見を最初から最後まで聞いて、それから答えた。

 

「ミヤ、そういう可能性があるってだけで、行かないとは言ってない。琢也、伝えたいものは言葉にならないだけで、もうあって、あくまでも世界一周はそれを確認するもの。見つけるっていうのは、ちょっと違う」

 

しかしそれを聞いたところで、僕たちの反抗は収まりはしなかった。

 

たしかに、不安要素はたくさんある。世界一周に行くには誰かに店を引き継がなければならないし、帰って来た後に資金の無くなった僕たちはまた働き口と資金を稼がねばならない。でも、そういうものだと思っていた。それよりも、揺るがないものを見つけるんだと思っていた。

こんなときに、専務からずっと言われ続けていた言葉が脳裏によぎる。

 

「世界一周なんてやめとけ。馬鹿か。あんたらは、せっかくためたお金を、せっかくためたお金を!ただ遊びに使っておしまいか。もっと冷静に考えなさい。」

 

今までずっと、本間君こそ「遊びじゃない」と反対して来たじゃないか。旅だなんてよく分からないという僕やミヤに向かっても、その価値を主張して来たのではなかったか。

 

僕は、僕たちは本間君を信用出来るのか。宿泊業や世界一周のことだけはない。これから先もずっと、やるべき仕事もないがしろに、僕たちの意見も顧みずにこうも簡単に考えを変えて行く本間君に付き合っていけるのか。

 

あれこれと議論する間に、時計の針は午前二時を回っていた。一日二日で片が付く話ではない事だけは間違いなかった。

 

 

 

 *これらの記事は当時書かれていブログや日記を元に新たに書かれています。