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物件との出会い。
玩具会社の倉庫からホステルへ。

Nui.の建物は、もともと「増田屋コーポレーション」という玩具メーカーの倉庫ビルでした。増田屋コーポレーションの創業は享保9年(1724年)。300年続く、老舗の玩具会社です。

2011年の終わり、その倉庫ビルが不動産情報に出ていることを知り、問い合わせをしたのがNui.の運営元である私たちBackpackers’ Japanです。Backpackers’ Japanは2010年に創業後、台東区入谷でゲストハウスtoco.を開業し、二号店を展開するため一棟貸しのビルを探していました。

初めて物件を見に行ったとき、分厚いシャッターを開けて目に飛び込んできたのは、160平米ほどの広さと4.5mある天井高がつくり出す開放的な空間でした。ぱっと視界が開けるような気持ちよさに魅了された私たちは、「こんな物件と出会えることはもう二度とない」という思いを強め、社内での協議を進めながら、物件を借りるための資金調達を計画し始めます。

とはいえBackpackers’ Japanはこのとき創業二年目。20代半ばの役員数名の他には社員一人のみという非常に小さな会社でした。加えて、当時はいまほど「ゲストハウス・ホステル」という業態が知られていなかった時代です。そんななか、物件の契約まで進むことができたのは、物件オーナーである増田屋さんの理解があってのことでした。増田屋さんは、自社の倉庫ビルが時代を経てホステルへと変わることに大きな魅力を感じてくれました。

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まるで自然の中にいるような場所を目指して。

改装工事にあたっては、ゲストハウスtoco.の開業時からお世話になっていた大工チーム渡部屋を中心に、全国から14人もの大工さん、職人さんが集まってくれました。

内装デザインは、当時フリーで活動していたインテリアデザイナーの東野唯史さんが担当。私たちBackpackers’ Japan、大工さんチーム、東野さんの三者は「施主」「施工者」「デザイナー」の垣根を超え、朝から晩までともに作業し、毎晩のように話し合いを重ねて工事を進めていきました。

空間づくりのヒントになったのもやはり一階の抜け感でした。「こんなに開放感があって風通しのいい一階があるなら、気楽に過ごせて、隣の人ともつい握手してしまう、まるで自然の中で飲んでいるようなバーをつくろう」。会話の中で生まれたそんな言葉を元に、デザインイメージを膨らませていきます。

デザインの大枠が決まったあとは、北海道のニセコを訪れて実際に木を選定し、それを現場に持ってきて加工しながら配置していきます。

木の形をそのまま生かした大胆なカウンター、切り株のような椅子、五角形のテーブル、縁の湾曲したソファ、中央に立てたシンボルツリーなど、つくられるものはすべて北の雄大な大地や、自然に存在するものから着想を得ています。それもこれも、ここを訪れる人が様々な人構えず、自由に居られる場所を目指してのことでした。

四ヶ月の工事の末出来上がったNui.。その顔となる一階のバーラウンジは、まさに屋内にいながら外にいるような空間になりました。

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建物の歴史と想いを受け継ぎ、
訪れる人たちの時間を紡ぐ。

図面を追うような工事ではなく、日々の会話とお互いの信頼を元に少しずつイメージを形にしていく作業。大工さんやデザイナーさんとの強固な関係のもと生まれたのがNui.という場所です。

Nui.の名前は、そんな背景に基き、「手縫い」の「縫い」から取ることにしました。

改装作業の様子を表しているだけでなく、実際の宿の運営においても、「マニュアルに頼るのではなく、個人個人の意思を大切にし、機械的な正確さよりも人の温度が感じられる空間づくりをし続けたい」という思いが込められています。

Nui.が蔵前という町に2012年の9月に誕生してから、あっという間に多くの歳月が流れました。スタッフの顔ぶれはオープン当初とは変わりましたが、それぞれ個性を生かし、自分の言葉、自分のやり方で訪れる人を迎える仕事の仕方はしっかりと受け継がれています。

カフェやバーを併設し、旅行者と町の人が混じり合うNui.は、旅をする人にとっては町の日常に触れられる場所であり、この町に住む人にとっては旅の楽しさや明るさを感じられる場所。

建物の歴史と、この場所をつくった人たちの想いを受け継ぎ、普通は交わることのない旅行者の時間と町の日常を、私たちはこれからも紡ぎ続けていきます。

KURAMAE, TOKYO