INTERVIEW

自然と生きるのは、忙しくて心地よい。—— ist事業責任者 興梠泰明 × LAMP支配人 野田クラクションべべー

長野県八ヶ岳エリアに位置するキャンプフィールド「ist - Aokinodaira Field」と、同じく長野県の信濃町エリア、野尻湖畔に佇む宿泊施設「LAMP」。istの事業責任者である興梠泰明さんとLAMP支配人である野田クラクションべべーさんは同い年。お互いそれぞれの施設で研修を兼ねた宿泊をしたり、イベントに参加するなど、お互いに刺激し合ってきたと言います。二人が見てきたお互いの施設の変遷や、長野だからこその自然の味わい方についてお聞きしました。

興梠泰明(こうろきやすあき)

2017年入社。Nui.で1年間働いたのち、他社に出向し、カンボジアでホテル立ち上げを経験。帰国後、事業責任者としてist - Aokinodaira Fieldを立ち上げる。istでは「自然とともにある」を理念に、暮らしと自然がシームレスにつながる場所を目指している。サーフィンと渓流釣りが好き。

 

野田クラクションべべー(のだくらくしょんべべー)

東京都出身。東京のWeb制作会社の株式会社LIGに入社後、アメリカ横断、日本一周を達成。

2018年に長野県信濃町に移住し、クラウドファンディングで支援を集め「The Sauna」をオープン。現在は、株式会社LAMP、The Saunaの支配人としてサウナー(サウナ好きの人)を増やす活動を行っている。

 

—— ジョンさん(編集部注:興梠さんの通称)、べべさん(編集部注:野田さんの通称)のお二人はそれぞれの場で「事業責任者」「支配人」というお仕事をされていますが、具体的にどのような業務をしていらっしゃるのでしょう?

ジョン:僕はistの事業責任者なので、istの今後の開発計画を立てながら、長野のist - Aokinodaira Fieldと、2024年4月にオープンした佐渡島のist - Sadoの運営を見ています。イベントを企画したり、キャンプ場であることは大切にしながら、ist独自の宿泊棟「Hut」にどうお客さんを呼んでいくのかを考えたり、人が足りないときにはオペレーションに入ることも。

べべ:僕はLAMP野尻湖の支配人ですが、6年前のThe Sauna立ち上げからここに来ました。今はブランディングを考えたり、30人くらいのスタッフがいるので、マネジメントをしたり。最初はサウナを一人でやっていたけど、最近はメンバーにもサウナを任せるようにしています。ジョンくんが長野と佐渡をどちらも見ているのとは違って、LAMPの豊後と壱岐にはそれぞれ別の支配人がいるので、そっちにいくことは多くはないかな。でもLAMPの外では、サウナのプロデューサーとしての仕事もあるので、出張が多すぎますね(笑)。

ジョン:出張を重ねると、不健康になるよね(笑)。

左:興梠泰明(ジョン)、右:野田クラクションべべー

 

べべ:そうそう、エネルギーがすり減る感じ。僕が新卒の時に日本一周しながら、スピーカーなどを販売したりしていたんです。その時もたぶんすり減っていたんだけど(笑)、旅する中で出会った宮崎県のサーファーから「波っていうのは来るものだから、追いかけるんじゃなくて、待つんだ」と。つまり追いかけ続けて疲れるよりも、向こうから人が来るようなビジネスをしろと言われたんですよ。

ジョン:僕はサーフィンをするのが好きなんだけど、たしかに波を追いすぎるとめっちゃ疲れるから、波を待って、どの波に乗るかを考えて、自分に合う波に乗れると気持ちいいですもんね。

べべ:ホンモノのサーファーだ!僕はサーフィンやらないのに、サーフボードを乗せて日本一周営業してたけどね(笑)。でも、波を待つのが大事だとわかりながらも、The Saunaを始めたときは「クーポンを配り終えるまで帰らない」「ポスターを貼り終えるまで帰らない」とか、疲れるのをわかりながらも波を待たずに向かっていくようなことを泥臭くやっていました。今、ここに来て6年目だけど、ようやく波を待ったり選んだりできるようになった感じかなぁ。だからこその「波を待って乗る」心地よさのようなものが今は少しわかる気がします。

31歳、同い年、支配人。お互いに嫉妬し、刺激し合う関係

—— お二人には「支配人」という肩書き以外にも共通点はあるのでしょうか?

ジョン:僕たち、同い年なんですよ。役割も責任も与えられてるけど、社長というわけではないから事業責任とか会社の理念というのを背負って、運営もしていく。ここまで共通点があるのは珍しいのかも。たぶんお互いに刺激し合っているよね。LAMPのことは常に意識してます。

べべ:istのブランディングはかっこいいなと思っていて。ウェブサイトが動く!日の光がサイト上で変わる!ずるい!と思ってました。おしゃれなんですよ、やっぱり。Backpackers’ JapanはNuiやCITAN、Lenにも泊まったけれど、ビジネスホテルとは違って、おしゃれな気持ちになれる宿って、旅の拠点になるんだなと感じました。そこがキャンプ場をやるっていうから、すごく面白いな、と。

ジョン:僕が嫉妬しているのは、LAMPにはきのこ狩りやSUP、カヤック、川下りなどいろんなガイドの人たちが社員でいること。アクティビティができるのは羨ましいです。僕も八ヶ岳周辺をist - Aokinodaira Fieldという点だけでなく、面で楽しめるようにしていきたくて。

べべ:LAMPはもともと、アウトドアスクールがあった宿だったこともあり、そのカルチャーを消さないためにどうしたらいいかを考えて。ほぼ正社員で、みんながんばってくれていますね。

ジョン:僕もLAMPのきのこ狩りに参加したんですけど、きのこそれぞれの特性だけじゃなく、毒きのこも自然を循環させるための役割があるとか、この草は掴んでもちぎれないから山を登るときにつかまるといいとか、山全体のことを解説してくれたんです。そして収穫したきのこを、宿に戻ってきのこ鍋として食べられる。体験から食まで繋がっているのが本当にいいなと。僕がist - Aokinodaira Fieldで次にやりたいのは、それです。

ゲスト層の広がりを、徐々に変化させていくための工夫

べべ:LAMPってなんなんだろうというのを考えたときに、決してハード、つまり設備がすごく強いというわけではないと思うんです。なのに、客単価がリゾートホテルくらいになっている。その理由はソフト。サウナも含めたアクティビティをどう楽しんでもらうかを考えていくと、目指したい世界になっていくな、と。

べべ:もともと一般的な「ゲストハウス」として宿泊に来る外国のお客さんも多かったんです。でも、サウナを始めてからは国内のお客さんにターゲットを切り替えました。海外からゲストハウスを期待してくるのに、キッチンが使えないとか、ドミトリーがないとか、機能が変わっていった。そこでOTA(予約サイト)などへの掲載を辞めて、直接予約のみにしました。そうすると、ゲストのミスマッチがなくなったんです。

ジョン:たしかに、期待値がずれたままだとレビューなどにも影響が出ちゃうかも。

べべ:今度はサウナが定着してきたら、例えばポルシェで来るゲストがいらっしゃったり、テスラで来たけどうちには車を充電する電源がない、という問題が起きたり。それで、今ある宿泊設備だけではこれ以上単価を上げられない、ということになって、トレーラーハウス「Earthboat」を新たに展開することになりました。LAMPが運営する、薪サウナ付き一棟貸しタイニーホテル「Earthboat」

 

ジョン:ist - Aokinodaira Fieldはまだ出来上がって2年、しかもHutが全棟完成したのは2023年の8月なので、半年ちょっとしか経っていない。それでも、オープン時に比べて若い人が本当に増えました。冬場にHutのゲストで、ミニスカートにハイヒールでいらっしゃった方がいて。単なるキャンプサイトじゃなく、Hutがあるからこそのゲストもいるんだなと、広がりを実感しています。

べべ:istだと、英語ができるスタッフも多いんじゃない?

ジョン:まさにスタッフのうち2人は英語がペラペラで。キャンプ場で土地に詳しい、英語の話せるスタッフがいるというのはすごく安心材料になるはず。キャンプ場での困りごとの相談に英語で乗れるのは大事ですよね。これからはインバウンドにも力を入れていきたいと思っていて、サイトも英語で準備中だったりします。それと、英語に限らず、スタッフが自発的にやりたいことをできる環境にしたい。大自然に来て、スタッフが苦しそうな顔していたら、いやですもんね(笑)。

ist - Aokinodaira Fieldの宿泊棟「Hut -float-」

 

べべ:LAMPもゲストから「みんないきいき働いてますね」ってよく言われます。それで思い出したんですけど、LAMPのある信濃町にはガソリンスタンドが3つあるんですが、一箇所だけ若い子たちがやってるんです。「いらっしゃいませー!窓、拭いておきますね!」と元気いっぱいにガソリン入れてくれると、タイヤ交換とかもここに任せたいなって思いますよね。

ジョン:たしかに、キャンプ場の管理人もおじいちゃんが結構多いかも。そういう、昔から土地のことを知り尽くした管理人さんのいるキャンプ場の安心感もあると思うけど、一方で、istには「ラウンジなどでスタッフと喋りたいから来る」と言ってくださるゲストがいて、それも楽しみ方のひとつ。そういう声をいただけるのは純粋に嬉しいですし、自分たちがやってるからこその価値だな、と感じます。

べべ:お出迎えとお見送りが大事という話はよく耳にしますけど、本当ですよね。これに尽きる。たとえば料理ってお店で食べたら、だいたいおいしいじゃないですか(笑)。でもそこで、お出迎えとお見送りを徹底するというのはゲストが来てくださる秘訣。LAMPでもスタッフに徹底しています。

ジョン:チェックアウトのときにラウンジにきて、「ありがとうございました」の一言で終わるのではなく「昨日寒かったですけど、大丈夫でした?」と声をかけられたら、心配してもらえたんだな、という気持ちで帰ってもらえますもんね。

季節が変わる瞬間が、空気でわかる

—— 長野の中でも、野尻湖と青木の平ではだいぶ雰囲気が違うと思います。お互いに行き来して感じるそれぞれの特徴はありますか?

べべ:どちらも避暑地や別荘地ではあると思います。でも、ist - Aokinodaira Fieldのある八ヶ岳の方がメジャーでキャッチーな感じがしますね。LAMPのある「黒姫」と言っても、なかなか東京の人には伝わりません。

ジョン:LAMPに来ると、特に湖畔沿いなど森の明るさがうちとは違うなと感じるんだけど、木の伐採など手を入れてるの?

べべ:むしろ第二種国立公園なので、あんまり切っちゃいけないんです。長野駅からは車で移動しても近いし、実はアクセスがいい国立公園でもある。ist - Aokinodaira Fieldは森ならではの暗さが印象に残ってるかも。標高が高いよね?

ジョン:標高1300メートルくらいかな。

べべ:そうか、ここは半分くらいだなぁ。標高だけじゃなく地形などの影響もありそうだし、植生の違いを感じられている気がする。僕は野尻湖に恋してる感じがあるかも(笑)。釣りを始めてからは特に。

ジョン:湖はずるいよ。

べべ:季節で景色がどんどん変わっていくので、今も、すでに来年の初夏が楽しみなんです。厳しい冬があるから春が楽しくて、季節の変わり目でテンションが上がる。

ジョン:「あ、春が来る」「冬が来た」というのは、動物の鳴き声や風のあたたかさでわかる瞬間があるよね。カッコウが鳴いたら地面が凍らないから、種を植えるといいという話を聞いたこともあります。

自然と向き合うことは、忙しい。だからこそ心地よい。

べべ:自然と向き合うって、実はめちゃくちゃ忙しい。人間のペースじゃないから、草は勝手に伸びてくるし、雪は降るし。僕は東京の下北沢で生まれ育ったので、そういうことがあんまりなかったんです。こっちに来てからは、草刈りや雪かきみたいなことが連鎖しているから、忙しくなる。そういえば、僕のおばあちゃんは北海道にいるんですけど、帰ると親戚で集まったりする面倒臭さもありつつ、それはそれでとてもいい時間だったと思える。忘れかけてた何かを思い出して、「人間に戻れる」という感覚ですね。

ジョン:べべくんは信濃町に、僕は八ヶ岳に住んでいるからこそ、草刈りの大変さとか、暖を取るために薪割りをしなくちゃいけないとか、全部自分たちでやっていかないといけない。仕事でもあるけど、どちらかというと「生きるためにやること」という感じですね。そこからもたらされる豊かさもある。

べべ:たしかに。水も飲まずに2時間くらい草刈りをして気持ちいいとか、そのあと井戸水に氷をひとつ入れて飲むのが一番うまいとか。最近、草刈りをしていて「あ、土の中にダンゴムシがいる」という些細なことで感動したりするんです。そういうことって、子どもの頃にはもっとあったはず。

ジョン:草刈ったあとの芝って、本当に一番きれいだしね。

べべ:それは本当にそう。僕、家を買ったんだけど、家を買ってから気づいたことってたくさんあって。たとえば賃貸だと、オーナーさんが除雪も庭の手入れもしてくれる。だけど自分で買った家の庭は、自分できれいにしなきゃいけない。それできれいにすると、すっごく気持ち良い。

ジョン:LAMPは自然がすごくきれいに手入れされている感じがする。

べべ:それこそ家を買ってから、LAMPの草刈りも積極的にやるようになったんだけど、人手が足りないから「誰か手伝って!」とスタッフに声をかけたら、だんだんみんなも自発的にやってくれるようになって。逆に僕も「手伝って!」と呼ばれるようになってきちゃったから逃げられない(笑)。やってることはゲームの「どうぶつの森」と一緒だよね。一回、奥さんにすすめられてゲームもやってみたんだけど「あ、これ僕がリアルな生活でやってることだわ!」って思っちゃった(笑)。

ジョン:ベベくん、自分で丸太を運んでサウナ作ったりしていた時期もあったしね(笑)。自然と向き合う、というと楽しいことや安らぎに目が向く人が多いかもしれないけど、大変なことや危険なことが伴う。思い通りにならないことに直面する回数で言えば、圧倒的に都市よりも多い。だからこそ、都市での生活では気づきにくくなっている感覚を取り戻せるのかもしれない。

べべ:この辺は車に乗ってても風がすごく気持ちよくて、それはゲームでいうと「ぼくの夏休み」(笑)。

ジョン:たしかに、僕もここにきて「風が超気持ちいい!」と思ったよ。

べべ:時間帯によって風向きが変わるのも好きなところ。

ジョン:いいなぁ。ここは車で40分北上したら海もあるから、サーフィンもできるしね。生きる中には暮らすこと、楽しむこと、遊ぶこと、怒ること、悲しいことなどいろいろあるけど、自然の中には全部がある気がする。自然自体を「気持ち良い」と感じることもあれば、こういう環境で暮らすことで「生きることに能動的」になっている感覚もある。こういう場所に来て肩の力が抜ける瞬間や、自然の中に身を置くからこそ感じられる豊かさを得られるのが、istやLAMPの良さかもしれません。

執筆

山本梨央

小田原の山伏寺に生まれ育つ。株式会社cinraで「CINRA JOB」事業部長やクリエイター移住促進、企業のオウンドメディア立ち上げなどを経験した後、フリーランスとして独立。現在は編集者・ライター・Podcastディレクターなどをしながら、企業の採用コンサルや発酵デパートメントでのディレクターも担当。毎日着物で生活中。

撮影

竹之内康平(こぺ)

1994年生まれで、Backpackers’Japanの運営するホステル「Nui.」のバーテンダー。アメリカへの渡航経験があり、酒と写真、音楽を愛する。

企画・ディレクション

なかごみ

デザイン会社でのディレクター、アパレルブランドでのコミュニケーション責任者を経て、フリーランスとして独立。Brand Editorとしていくつかの会社に関わり、文章をつくったり、写真を撮ったり、発信にまつわる企画やディレクションをしています。好きなお酒は、ビールとワイン。