長野県八ヶ岳エリアに位置するキャンプフィールド「ist - Aokinodaira Field」。キャンプサイトのほかにHutと呼ばれる小屋が点在していることがistの大きな特徴で、今年の8月に5棟目のHutとなる「Hut -glow-」が新たにオープンしました。今回は、Hut -glow-の建築に関わった、ist事業責任者の興梠泰明さん、大工の小竹将通さん、荒達宏さんにお話を伺いました。
興梠泰明(こうろきやすあき)
2017年入社。Nui.で1年間働いたのち、他社に出向し、カンボジアでホテル立ち上げを経験。帰国後、事業責任者としてist - Aokinodaira Fieldを立ち上げる。istでは「自然とともにある」を理念に、暮らしと自然がシームレスにつながる場所を目指している。サーフィンと渓流釣りが好き。
小竹将通(こたけ まさみち)
物づくりと山歩きをこよなく愛する大工。20歳のときに革細工にのめり込み、様々な革のルーツを探す旅をしていた。24歳で山の水環境屎尿処理問題に興味を持ち、建築の道に進む。現在は、山小屋の修復職人不足を解決するため、極地建築集団の設立に向け準備中。また、ライブ感や即興性とともに建築を作り上げる集団「ワーカブルース」で活動している。自称、建築バカ。
荒 達宏(あら たつひろ)
1988年生まれ。大学卒業後、社寺建築の現場で修行する。その後、家具製作や内装の仕事などを転々としながら現在に至る。仕事があればどこにでも行く。見たい建築があればどこにでも行く。これからの大工の在り方を日々模索しており、ワーカブルースへの参加はその実践のうちの一つ。人生のバイブルは北方健三・水滸伝。

(写真:akari kuramoto)
小竹:この窓から白樺の枝が見えるようにしたのは正解だったね。いい感じ。
興梠:これほんまに良いんですよ。リビングに入ると、この形の窓に白樺の幹がハマっているのが、glowのアイコニックな景色になってて。
荒:窓の向きも、最初は悩みましたよね。
小竹:そうだね。メインの窓から八ヶ岳が正面に見える角度で建てるのか、この白樺を小さな窓のセンターにするために、全体の角度をちょっとずらすのか。でも最終的には、ジョン(興梠の愛称)が白樺を窓から見せたいって言ってくれたから、こうなったんだよね。
荒:そうでしたね。でもこれは正解だったと思う。
—— ここの窓からの景色、本当にすごく綺麗ですね。室内に入るだけで今のような話が出るみなさんの様子に、Hutへの愛着を感じます。今回は、ist - Aokinodairaに新しく出来た5棟目のHut、glowについてのお話を、建築に携わった3名に伺っていきたいと思います。

(写真左から、興梠、荒、小竹)
納得の1等地に立った、新しいHut
—— まずは、ここにいる3名のみなさんのglowとの関わり方をお聞かせください。
興梠:僕はistの事業責任者で、新たにこのHutを作ることを提案しました。

小竹 :僕は建築・設計についての全体の責任者のような立場ですね。
荒:僕は、建築全体のスケジュール調整などを行いました。あとは、現場で大工のみなさんとの調整も行いましたね。
小竹:荒くんはこれまでもHutの工事を一緒にやってくれてたんだけど、今回は設計から入ってもらいました。この3人でHutの設計を考えるのは初めてだったから、それもまた楽しかったよね。
—— そもそもこのglowは、どういう経緯で制作することになったんでしょうか?
興梠:glowは2年ぶりの新しいHutになるんですけど、追加で作る理由としては大きく2つありました。
1つは、istを通して伝えたい世界観や思想にもう少し深度を持たせたかったということです。istは、「自然とともにある」という理念のもと、「普段の暮らしを自然の中で」というコンセプトを表現しているブランドです。ただ、キャンプ場の機能だけでは、理念やコンセプトを表現しづらかったり、体験価値を伝えづらい。そこを補完する役割として、小さいけれど暮らしに必要な機能が詰まっているHutがあるんです。
小竹:普段の暮らしに近い滞在をしながらも、外にはistの自然が広がっていて、滞在中にその素晴らしさを感じられるっていうのが、Hutの特徴だよね。

興梠:つまりHutは、理念やコンセプトをより効果的に伝えていく役割をしているんです。
もう1つの理由は、利益を出しながら事業を継続していくために、売上を立てられるコンテンツを追加で作る必要があったということです。キャンプ場ってどうしてもシーズンや気候に左右される事業で、それでも安定的に売上を立てて継続的に運営していく必要がある。この2つを達成するために何ができるかを考え、新しいHutを作ろうと決めました。

—— 今の場所に作ることは、その時点で決まっていたんですか?
小竹:ジョンの方で候補地をあらかじめ2箇所に絞ってくれていて、2つの場所を実際に一緒に見て決めたんだよね。この場所だったら近くに水道管があるし、電線も近いし、水も電気も比較的容易に引けるのが条件としては良かった。それに、なんといっても、このglowからの景色が、これまでのHutにはない景色なんだよね。
興梠:glowが建ってる場所って、僕たちが普段から1番綺麗だなって思ってる、要は場内の1等地でもあるんです。西日が1番強くなる時間帯に、光線のような光がぶわーって降り注ぐんですよ。谷と木々に阻まれて直射日光がなかなか当たらない場所が多い中で、ここだけは西日が直接差し込んでくる。
ist - Aokinodaira Fieldの中で1番綺麗な場所ってどこだろうってなった時に、すぐに思い浮かんだ場所がここでした。せっかく建てるなら、そういう風景をお客さんに見て欲しいし、この空間を通して僕たちが感じている美しさを体験してもらえるといいなと思って。
小竹:ist - Aokinodaira Fieldで建物をいくつも作ってきて、僕たち大工チームも土地に対しての解像度が上がっていたので、僕らよりも長く過ごしているジョンがどの場所を選ぶのかにすごく興味がありました。そして、「この場所で」って最初に言われた時に、「うん、そうだよね」って。1年いるとよくわかるけど、葉が落ちた時の抜け感とか、西日の入り方とか、すごく心地いいんだよね。だから、ここにHutができるのは最高だなって思ったな。
小さくても、ちゃんと居場所がある空間
—— みんなが納得していた場所に新しいHutを作ると決まった時のワクワク感が想像できます。
小竹:ただ、場所としてはまあまあ目立つところで、サウナや水風呂を作るとなるとどうしても建物自体が大きくなっちゃうという悩みがあったんだよね。小さく作ることを諦めたくはなかったから、どうやったらその課題が解決できるかを、この場所に決めた時から思っていたなあ。
荒:そうそう。最初の頃は、「でっかくなっちゃうね」っていう話をずっとしてましたよね。
興梠:glowは他のHutと違ってサウナがあるし、シャワーも付いてる。水回りを全部含めるとどうしても「家」になっちゃう。でも作りたいのは家じゃなくてあくまでHutだから……。Hutらしさを保ちながら、いろんな機能が付いているというのはどういうことなんだろうっていうのは、すごく悩んだところですよね。

—— みなさんが共通で思われている「 小さく作ることを諦めたくない」「作りたいのは家じゃない」は、どういった理由から来ているんですか?
興梠:本来の単語の意味通り、Hutはあくまでも小屋であって、長く生活を続けるための家ではない、という考えが基本になっています。1泊2日や2泊3日の滞在の場合、大きすぎる建築ではどうしても空間を持て余して逆に居場所がないように感じたり、外の自然との接続を感じにくくなってしまう。
でも、2、30平米くらいの中に寝室とキッチンがある小屋であれば、持て余さずに使うことができるし、すぐ近くに周りの自然を感じることができると思うんです。なので、「小さな小屋」のサイズに収めることをとても大事にしています。
小竹:見た目は小さくても、中に入ると狭さを感じなくするために、居場所と抜け感をどうつくるかっていうのが大事なポイントとしてあって。そのためにも、建物の見た目を極力小さくするっていうのは重要だったね。これまでのHutを作っているときは、機能をどれくらい絞るかが悩みだったけど、今回はすべてを入れた上でどう小さくするかが悩みだった。
興梠:glowは、リビングやキッチン、ベッドルームなどの随所に、意図して少しハイスペックな設備を入れています。今までのHutシリーズの思想は継承しつつ、ワンランクアップデートした新しいものを作りたかったんです。それに加えて、シャワーやお風呂が付いて、さらにプライベートサウナがつく。リビングや寝室も、これまでのHutに比べてさらにゆとりや余白を作りたかったので、それを空間の中に落とし込んだ上で、デザインや機能性について考えていきました。

—— 機能はたくさん付いていて、でも小屋であるという制約はあって、かつ余白もないといけない。聞いていると、すごく難しいことのように思えます。どうやって具体化していったのでしょう?
荒:最初に小竹さんと僕でそれぞれの案を考えてきて、プレゼンをしました。模型をつくったりもしましたね。最終的には、小竹さんの案をベースに僕の要素を一部入れたり、アイデアを混ぜ合わせて、glowのベースができました。
小竹:結構ハイブリッドだよね。そうやって大枠を決めながら、平面図の時点で、細かいディテールの部分もイメージしながら進めていました。

興梠 :今回は立面図も途中で起こしてもらいましたけど、最初の平面図の段階でかなり具体化されていました。壁の色とか階段の形とかまでは記されてはないけど、寝室がここにあって、ベッドがここで、デスクと階段があって、1階にL字のソファがあるみたいなところまではイメージを共有できていた。
荒:うん、今のglowの形やレイアウトは、かなり早い段階でイメージとして固まっていたと思うな。
—— 先ほどの大きくなり過ぎてしまう懸念を払拭できるような解決方法は、3人で議論をする中で見つかったのでしょうか?
荒:選択肢をできる限りすべて挙げて、それらを比較検討していくうちに自然とまとまっていったよね。なので、解決方法がポンッと出てきたというよりは、話していくうちに少しずつ今の形に近づいたようなイメージですね。
小竹:僕は、2人と話をしながら、頭の中で実際に建物の中にいる自分をイメージしていた。その自分を歩き回らせたり座らせたりしながら、居場所と小ささをどう両立するかを考えていったような感じかな。
興梠:小竹さんのそのイメージ力、すごいですよね(笑) でも、そうやっていろんな案を出して検討して、今の形になりましたね。

周囲の自然を最大限感じてもらうためのサウナ
—— 今回のglowにはサウナがありますよね。これまでのHutとは最も大きく異なる点だと思いますが、サウナ付きにする構想は最初からあったんでしょうか?
興梠:そうですね、最初から決めていました。とはいっても、世間的にサウナが流行っているから追随したいといった理由ではなくって。このist - Aokinodaira Fieldの自然やglowの建つ場所の素晴らしさをしっかり感じてもらうために最適な方法が、身ひとつで自分や自然と向き合うサウナだと思ったんです。
glowは空間としてかなり開けています。宿泊棟の窓も大きいし、テラスに出れば森を見渡せるようになっている。でも、そんな開放的な空間の中で、サウナの中は極力光量を絞って、自分自身と向き合うことができるように作りました。
—— 瞑想のようなイメージでしょうか?
興梠:まさにそうですね。八ヶ岳側に向けて細ーい横長の窓があって、そこから一筋の光が暗い空間にサーっと差し込む。それがもう美しくて、その光の揺らぎを見てるだけで満たされるし、すっと冷静にもなれる。この体験がこの森の中でできるっていうことが、本当に最高で。

小竹:その細い窓は、光を取り込む以外に外の景観を取り込む役割も果たすんだよね。あの窓は八ヶ岳に向いていて、冬になって木々の葉が落ちると、八ヶ岳の稜線が窓から望めるようになっている。
荒:建てている時期は夏だったので、冬になって葉が落ちないと、果たして本当に窓から稜線が見えるのかはわからないんですけどね(笑)
最初の計画では、大きい窓がつくはずだったんですよ。もっと開放感のある。
興梠:でも作っていくうちに、空間の対比や居心地を考えると、窓は小さいほうがいいんじゃないか? ってなったんですよね。そこから、窓の大きさや場所を大工さんたちがいろいろ検証してくれて。僕はその時長野にいなかったので遠隔で確認していたんですけど、これまで長く一緒にやってきた信頼感があったので、最終的には大工さんたちの感覚に任せました。
小竹:ちゃんと八ヶ岳が見えるかどうか、検証はこれからだね(笑)
興梠:いやー大丈夫っしょ!ピッタリはまってると思ってますよ。冬にサウナの中から八ヶ岳がビタっと見えたらめちゃくちゃかっこいいだろうなあ。

—— まずは建てる場所を決めて、周りの自然環境を楽しめるようにデザインやレイアウトを決めていく、というのがHutの大きな特徴であるように感じます。
小竹:そうだね。場所に合わせて建物を作ることが、Hutの条件の1つかもしれない。
興梠:確かにそうですね!「その場所を1番気持ちよく過ごせるように、場所に合わせて作る」のがHutの意味でもあるというか。
小竹:「その場所を1番気持ちよく過ごせるように、場所に合わせて作る」は、できるだけその場所の環境を変えないように作るという意味も含んでるよね。その場の環境を守るように、元々あった植物も殺さないように、今回みたいに床を上げて、建物がべたっと地面につかないように作っている。

荒:だからこそ、作る前にその場所に実際に立って、ぐるっと周りを見渡す、という作業が絶対に必要ですよね。暮らしに必要な最低限の機能があること、 建物としては小さくあること、そして、その場所をそのまま1番楽しめるように作られたものを、僕らはHutって呼んでるってことだね。
生まれた意思が、つながってきた
興梠:ist - Aokinodaira Fieldで、何棟もの建物を一緒に作らせてもらう中で、大工さんたちとの共通言語がしっかり生まれてきてるような感覚が自分の中にすごくあります。
小竹:ジョンがどういう景色を見たいかとか、こういうものが好きそうだなといったことがわかるようになってきていると僕も感じます。今回は特に、最初から描いてるものが通じてるような、繋がってるような感覚があった。 ゲストハウスtoco.(Backpackers’ Japanの1号店)から始まったBJとの関係が、こうやって変化しながら続いていることも嬉しいね。

興梠:Hutが出来た順に考えると、nest(ist - Aokinodaira Fieldの1棟目のHut)を作り始めた時の僕って、赤ちゃんみたいなものだったんですよ。最初の打ち合わせなんて、僕は何も発言できなかったですもん。でも、だんだん作っていくうちに「こうしたい」っていう気持ちが出てきた。小竹さんは、それをずっと見てきてくれていますもんね。
小竹:うん、coal(ist - Aokinodaira Fieldの3棟目のHut)の時くらいから見てる方向が合ってきてる感じがしたよね。赤い冷蔵庫とか。

(写真:Shuheiinoue)
興梠:あれくらいからですね。coalって中もぜんぶ炭化コルクで真っ黒のHutだから、どこか一か所にアクセントがあったほうがいいなって思ってたんですよね。それで、赤い冷蔵庫をこれや!って思って買って帰ったら……。
小竹:僕が、キッチンの壁を赤くしてたっていう(笑)
荒:すごいですね(笑) そのあたりからジョンの意思が出てきたんだね。
興梠:だから、人の人生に例えると、最初にできたnestとroof(ist - Aokinodaira Fieldの2棟目のHut)は赤ちゃん、coalで思春期に突入して中学生くらい、float(ist - Aokinodaira Fieldの4棟目のHut)で高校生くらい、今回のglowでやっと成人したって感じですね。自分の意志が、みんなに届けられるようになってきた。
今回2年ぶりに新しいHutを作ることになって、istというブランド自体の解像度が上がっていたり、istの理念やコンセプト体験との接続についての思考が深まっていたり、以前の自分との違いがすごくあるなと感じました。

最高って何回でも言いたい
—— では最後に、これからHut -glow-を利用される方に向けて、こういう滞在をしてほしいとか、こういうことを感じてほしいとか、なにか伝えたいことはありますか?
小竹: とにかくHutでゆっくり滞在しながら周りの自然を感じて、「もう現実に戻りたくないなー」ってくらい楽しんでほしいよね。サウナをしてご飯を作って……と、楽しんだ後は、Hutの中に自分のお気に入りの場所を見つけて、そこでとにかくボーっとするのもぜひやってほしいですね。
荒:glowの中には、特別ではないけどなんだか居心地が良い場所がたくさんあるので、どんどん自分の好きな使い方とか好きな過ごし方を見つけていってほしいですね。あとは、冬はサウナから見える稜線を楽しんでほしいです。見えるはずだから……(笑)

興梠:本当に最高のHutができたと思っているので、Hutの中にいながらでもist - Aokinodaira Fieldの自然を最大限に受け止められる滞在を楽しんでほしいですね。とりあえず到着したら、あのテラスに椅子置いてビールでもプシュッとやってたら、最高のタイミングで西日が差し込むんで。いやーー、想像しただけで最高やな。
僕、「glow最高!」って言いすぎて、スタッフとか、周りの人にちょっとだけ引かれてるんですよね(笑) でも最高なんで!まじで!
小竹:これはさ、自分たちもちゃんと泊まりに来ないといけないね。こんなに最高って言われたら。
荒:ほんとですね。稜線が見えるかチェックも兼ねて冬に。
興梠:やりましょう!

