INTERVIEW

ポジティブに自然体でいることを真似てみた、そしたら自分も周囲も楽しくなった —— Each Perspective Vol.9 BERTH COFFEE みなとみらい 矢島武流

海外にいるかのようなオープンで穏やかな空気感。和気あいあいと楽しそうに働くスタッフ。そこに上下関係はなく、それぞれがフラットな関係性で、何をやるか、どうやるかを話し合いながら運営しているという。

他の宿泊・飲食業と比べても独特な文化の源泉はどこにあるのだろうか。Backpackers’ Japanで働くスタッフ一人ひとりに焦点をあてたインタビュー集 "Each Perspective"。

今回は、横浜・みなとみらいのカフェ「BERTH COFFEE みなとみらい」でバリスタとして働く矢島さんに話を伺います。

矢島武流 | Takeru Yajima

2004年生まれ、長野県出身。18歳で上京し、押上のHaruに通うようになったことをきっかけに、コーヒーに興味を持つ。専門学校在籍中の2024年にBackpackers’ Japanに入社し、BERTH COFFEEみなとみらいでバリスタとして勤務。音楽と体を動かすことが好き。

 

焼き菓子好きから、コーヒー好きへ

—— まず初めに、簡単に自己紹介をお願いします。

矢島:矢島武流、22歳です。出身は長野県で、進学とともに18歳で上京しました。もともとは押上にあるBERTH COFFEEのロースタリー店舗「Haru」にお客さんとして通っていました。BERTH COFFEE みなとみらいオープンのタイミングでBJ(Backpackers’ Japanの略称)に入社して、バリスタとして働いています。今年の3月に専門学校を卒業して社会人になりました。

—— 元々はHaruの常連さんだったんですね!Haruと出会ったのは、どういったきっかけだったんですか?

矢島:元々は、コーヒーというよりも焼き菓子などの甘いものが好きだったんです。甘いものを求めていろんなコーヒー屋さんに行くうちに、自然とコーヒーも飲むようになりました。焼き菓子とコーヒーを楽しみに何度かCITANを訪問する中で、Haruで開催されるドリップセミナーのことを知りました。セミナーに2回ほど参加して、Haruのスタッフの結衣さん(BERTH COFFEE事業責任者、西村結衣)や佐久間さん(BERTH COFFEEヘッドロースター、佐久間遼)とお話しするようになって、そこからHaruに通い始めました。

—— コーヒーについて学び始めたのがHaruだったんですね。コーヒーを飲み始めることと勉強してみようと思うことの間には少し距離がある気がしますが、興味を持ったのはどういう点だったんでしょう?

矢島:いろいろなコーヒーを飲んでいくうちに、味の違いが分かるようになってきたんです。素人の自分でもわかるくらい違いがあるということがすごく興味深くて、次第にコーヒーをたくさん飲むようになりました。1〜2週間に1回のペースでHaruに行って、その度に新しい味わいに出会って、コーヒーのことを学ぶのがどんどん楽しくなっていきました。当時は上京1年目で友達もあまりいなかったこともあり、1人で行っても持て余さない小さな空間のHaruが居心地良かったんですよね。東京のお姉ちゃんお兄ちゃんのような結衣さんや佐久間さんもいるし。Haruは押上にあるので店の前からスカイツリーが大きく見えて、それだけで「東京だ!」と思えるのも嬉しかったです。

興味がある方へ素直に進んでみる

—— Haruが矢島さんにとって、コーヒーの勉強ができるだけではなく安心できる場所になっていったんですね。そこから、どういう流れでみなとみらい店で働くことになったんですか?

矢島:実は上京した当初は、スポーツの専門学校に通っていました。ジムのトレーナーのような仕事に就きたかったので、学校でトレーニングと管理栄養学と、スポーツマネジメントの勉強をしていました。

矢島:でも、コーヒーに興味が出てくるにつれてコーヒーを仕事にしてみたいという気持ちが芽生えてきたんです。同じ学校に通い続けるべきか、Haruで進路相談をさせてもらったりもしていましたね。学費は親に出してもらっていたので、悩んでいることを正直にお父さんに相談したら、「コーヒーやお菓子のことを話しているときの方が楽しそうだなと思っていたよ」って言われたんですよ。「わかっていたんだ」と思って驚きました。

—— 悩んだ末に相談してそんなことを言ってくれたら、嬉しいですよね。お父さんと一緒にカフェに行ったりもしていたんですか?

矢島:高校生の時に学校に行っていない期間があったんですけど、家にいるとどんどん落ち込んでいく僕を見かねて、お父さんが最初にカフェに連れ出してくれたんです。そこから地元のカフェを両親と巡るようになって、今思うとその頃からコーヒーやお菓子の話をしている僕を見ていてくれたんだと思います。「コーヒーをやりたいんだったら、そっちの学校に行くのもいいんじゃない?」って言ってくれたので、別の学校に入り直しました。

—— かっこいいお父さん……! どの道を進んでも、自分が決めた道を応援してもらえるのは励みになりますね。新しい学校は、どういう学校だったんですか?

矢島:調理に関わる技能全般を勉強できる専門学校で、コーヒーをメインに、お菓子や調理のことも勉強できるようなコースでした。学校に通いつつコーヒー屋さんでも働きたいと思っていたので、佐久間さんからみなとみらい店がオープンすることを聞いてすぐに応募しました。新しい学校に通いながら、元々やっていたアパレル関係のアルバイトも続けつつ、みなとみらい店でも働くことになりました。

開き直りが招いたポジティブな変化

—— みなとみらい店でのバリスタとしての仕事はどうですか?

矢島:働けてよかったなと日々思っています。みなとみらい店では僕だけバリスタも飲食業も未経験で、周りはバリスタの大会で入賞していたりBJ歴が長かったりする人ばっかりだったので、最初は緊張していたんです。そのうえ、学校や他のアルバイトとの兼ね合いで出勤数がみんなより少なかったこともあり、最初の頃はかなり大変でした。

でも、一緒に働くスタッフを見ていて、自分のマインドが「自分だけ右も左もわからなくて大変、辛い」から「店舗に経験豊富な人が多い分、いっぱい質問した方が良い!」に変わったんです。そこから、だんだん働くのが楽しくなっていって、スキルも習得できるようになり、最近やっと自信を持ってコーヒーを提供できるようになってきました。もちろんまだまだ悩むことも多いんですが、ヒントや答えをくれて導いてくれる人がいるから、ありがたい環境だなと思っています。

—— 社会に出たばかりだからこそ、経験豊富な同僚から受ける影響は大きいですよね。

矢島:みなとみらい店のスタッフって、みんなすごくポジティブなんです。負けず嫌いでポジティブ。自分は元々どんどんしんどい方に考えてしまう癖があったんですが、皆さんを見ていて「しんどい」を「悔しい」に変換したらいいんだって気付きました。そして実践してみたら、苦しくても頑張れるようになったし、サポートしてくれる人が現れるようになった。今は良いサイクルが回っているように感じます。

—— 「しんどい」とずっと考え続けること自体がしんどいですもんね。

矢島:そうなんです、しんどくて、どんどん元気も無くなっていっちゃう。なので良い意味で「やってみてダメなら仕方ない、失敗してもいいからとにかくやってみよう」と開き直ってみることにしたんです。それができたのは、みなとみらい店のスタッフのみんなと過ごせたからだと思います。やってみて例えうまくいかなくても、誰かに否定されることはないと思えるようになったんです。

自然体って楽なんだという気付き

—— みなとみらい店に入社してからこれまでの話を伺っていると、仕事との向き合い方だけではなく、生き方そのものに大きな影響を受けているように感じます。

矢島:そういう意味でも働いてよかったなと思います。BJはみんなが自然体でいるから、僕も自然と自然体でいられるんです。僕、頭の中でいろんなことを同時進行で考えているタイプなんですけど、普段はそのことをあまり出さないようにしていたんです。でも、そのとりとめもない考えを話してもみんな笑わずに聞いてくれて、僕をそのままの僕として受け入れてくれるんですよね。そういう環境になって初めて、取り繕わずに自然体でいられることって楽なんだなと気付きました。

—— 「自然体」と言うのは簡単だけど、 実際に実践してみるのは難しいように思えます。でも、みんなが見守っていてくれるという安心感が自分を変えてチャレンジしてみる力になっているんですね。

矢島:みんなが楽しそうに「自然体でいること」を実践する環境に身を置けることが大きいですね。みなとみらい店のオープン前にCITANで研修をしたんですが、CITANって海外のお客さんもたくさん来るし、日本人の常連さんもいるじゃないですか。そういう人たちと自然と交流が生まれる様子を見たり、自分もコミュニケーションを取ったりしたことも、自分の考え方やマインドをもっと良い方向に変えたいと思った大きなきっかけでした。今は、初めて会うお客さんとコーヒーや趣味の話などをして、相手のことを知るのがすごく楽しいです。

ニコニコの輪を広げていく

—— みなとみらい店のお客さんは、どういう方が多いんですか?

矢島:同じビルにインターナショナルスクールや体操教室が入っていて、お子さんの送迎に来られる方が多いです。他には、近隣のビジネスマンがお昼休憩で来てくれたり、週末に来てくれる近所の常連さんも多いかな。あとは、ワンちゃん連れのお客さんもいらっしゃいますね。僕は近くのジムに行ってから出勤することもあるんですが、ジムで一緒だった人がお客さんとして店に来て、「あれ……?」みたいな顔をされることもあります(笑)

—— いろいろなお客さんが来られているんですね!今日も一人でのんびりしている方もお喋りしている方もいて、みなさんそれぞれの過ごし方をしている様子が見て取れます。

矢島:お客さんが思い思いに過ごしてくれたり、喜んでくれたりするのを見ると、カフェという空間がやっぱり好きだなあと感じます。今振り返ると、地元で両親とカフェに行っていた時期があったから、今もカフェやコーヒー屋さんが好きなんだなと思うんです。コーヒーを片手に家族とおしゃべりする時間が当時の僕にとってはすごく大事な時間でした。上京してからも、カフェに行けば1人でいても1人じゃないように感じることができて、救われたことが何度もあります。

—— そう考えると、高校生の頃の矢島さんを外に連れ出してくれたお父さんの存在が、今の矢島さんにも大きく影響しているんですね。普段の仕事の中では、どういう時に喜びを感じますか?

矢島:常連さんも増えてきて、そういった方たちとコミュニケーションが取れるのは楽しいです。あとは、お客さんが喜んでくれる瞬間が何より嬉しいですね。「美味しかったです 」とか「家でも飲みたいから豆も欲しいな」とか、感想を言葉で伝えてくれるお客さんがたくさんいるんです。自分は今までお店の人に与えてもらう側だったから、自分が淹れたコーヒーが誰かの気持ちを動かして喜びを与えられる側になっているんだなと思えて、モチベーションにもなります。

—— 自分が良いものを受け取ってきたと思うからこそ、お客さんにも感じて欲しいという気持ち、素敵です。

矢島:逆に、お客さんからもらうものもいっぱいあります。 よく来てくれるドイツ人のお客さんがいるんですけど、いつもみなとみらい店に上がってくるエスカレーターのあたりからニッコニコで手を振ってくれるんです。そういうのがすごく嬉しくて、自分も他のお店にお客さんとして行くときに、ニコニコしながら挨拶をしようと心掛けるようになりました。初めて会う人にニコニコして挨拶するのって気恥ずかしいと思っていたんですけど、自分がされて嫌にならないことは他の人もならないだろうし、だったらやっていこうと思って。

—— 見ているだけで幸せな気持ちになりそうです。すぐに自分の行動に取り入れてみる矢島さんの前向きな姿勢が周囲に及ぼしている良い影響もありそうですね。

矢島:ニコニコしてると、なんだか気持ちも元気になってくるんですよね。ニコニコマインドというか(笑) みなとみらい店で働くようになってから、周りの人からも明るくなったと言われるし、こうやって話すのも好きになったと思います。前の自分だったらこんなに喋れなかったかも。人から影響を受けて、自分がニコニコ自然体でいることで誰かにもポジティブな影響を与えられていたら嬉しいですね。

知らない土地で感じた「気持ち良さ」

—— みなとみらい店を通して、出会う全ての人から受けたポジティブな影響を自分のものにしていて、良いですね。他にもこの仕事をし始めて変わったなと思う点はありますか?

矢島:業務の話とは少しずれるかもしれませんが、BJのみんなは旅行が好きで、みんな積極的に旅に出ているのがすごく良いなと思っています。会社の制度としても、トラベルサポート(旅費の一部を会社が補助する福利厚生制度)がありますよね。入社するまで自発的な旅行ってほとんど行ったことがなかったんですけど、みんなが楽しそうに旅行をしているのを見て、一昨年初めて1泊2日で京都に行きました。行ったことがない街でしたし、系列店のLenもあるからちょうどいいなと思って。そしたらそれがすごく楽しかったんです。1泊だったのでそんなにたくさんの場所には行けなかったんですが、旅行ってこんなに楽しいんだ、と驚きました。

—— 入社して新しい趣味まで! 周囲の影響を本当に素直に受け取って楽しんでいることが、今日お話ししている中でも伝わってきます。

矢島:去年は初めて海外旅行にもチャレンジして、バリに行きました。行ってみると、みんな自分の人生を豊かにするために働いていて、明るくて、それがすごく衝撃的で。知らない国や土地に行って、その土地が持つ雰囲気や特有の価値観を自分で感じるのって大事だなと身をもって知りました。旅行先でもコーヒー屋さんに行ったんですが、どこであってもコーヒーが媒介となって人が集っている空間や時間が好きだなというのも改めて感じました。自分の人生に旅行という要素が入ってくると思っていなかったので、BJに入ってから大きく変わった価値観のひとつですね。

—— 旅先で新しい価値観を得たり、自分が元々持っている価値観を改めて意識すること、ありますよね。

矢島:ついこの間、みなとみらい店のスタッフと一緒に韓国に行ったんですが、現地で1人の時間があって、その時に「この時間、好きかも」ってふと感じたんです。海外に来れるようになった嬉しさとか、普段暮らしている日本とは違う時間の進み方や街並み、その土地ならではの人の生き方といった空気感を感じる楽しさとか、そういう感情がまぜこぜになって「気持ちいいな」って。

—— その感覚を「気持ちいい」と感じるのが、すごく興味深いです。知らない土地で新しい感覚と出会うことの楽しさは、格別ですよね。

矢島:初めての感覚でしたが、すごくポジティブに感じたのを覚えています。いろんな場所に行くうちにワーホリにも興味が出てきました。英語の勉強もしたいし、海外旅行じゃなくて生活をしてみたくて。コーヒーの勉強のためにメルボルンに行くのもいいし、焼き菓子やパンも好きなのでフィンランドなどの北欧に住んだりするのもいいなと妄想しています。

でも、海外で生活してみたい1番の理由は、スキルを得るよりも、いろんな人の考え方とかポジティブさを吸収するためですね。みなとみらい店に入って以前よりもポジティブに物事を捉えられるようになったけれど、もっといろんな人と接して、吸収してみたいなって。土地が変わると考え方も変わるだろうし、もっと自分の知らない考え方を知りたいと思うようになりました。

まだ何者でもない自分のままで

—— バリスタとしてみなとみらい店で働き始めて2年がたつと思いますが、今後チャレンジしてみたいことはありますか?

矢島:現状に満足しちゃいけないと強く思っていて、定期的にコーヒーの大会に出るようにしています。まだ結果は伴っていませんが、大会に出場するまでの過程ですごく成長できているなと感じています。その成長実感が、モチベーションの維持にも繋がっています。 まずはコーヒーの技術や知識を得る段階なので、定期的に大会を目標に置きつつ勉強していきたいです。

—— 頼りになる先輩たちもたくさんいますもんね。では、みなとみらい店での働き方に限らず、人生の中で挑戦したいことはありますか?

矢島:人生で成し遂げたいことや夢のようなものが今はあまりなくて。バリスタであれば独立などが将来像として挙がると思うんですが、まだ自分にはそういう将来像はしっくり来ていないんです。

直近のやりたいことで言うと、先ほども話しましたが、ワーホリに行きたいです。今来てくれている海外のお客さんともっとコミュニケーションを取れるようになりたいし、今の年齢だからこそチャレンジしてみたいです。1人で初めて海外に行ったときに、「怖いと思っていたけど、意外と自分はいろんなことができるじゃん!」と感じたんです。これから自分が何をして生きていきたいのかがわからないからこそ、まだ何者でもない今の自分のままで、どんどんチャレンジして少しずつレベルアップしていけたらいいのかなと思います。





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企画 / 編集

宮村 友海

前職の旅行系広告代理店を退職後、2019年暮れにBackpackers’ Japanに入社。Len京都河原町でのレセプション・バーテンダー勤務を経て、現在は企画・PRとして従事。住んだことがある場所は山口、北海道、京都(、尾道)。好きなものは太陽と流れる水と酒場。

撮影

高山 奈々子

理系大学での学びを背景に、数値的な観点からSNS分析やマーケティングに取り組んできた。これまでは個人事業主として働きながら、BERTH COFFEEみなとみらいでバリスタとして現場に立つ。この春からは全社の人事領域にも関わり、現在はBackpackers’ Japanを軸にバリスタ業務と人事業務に取り組んでいる。