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Guesthouse, Cafe, Bar, Dining in Kyoto.

Guesthouse and Bar in Kyoto.

拝む背中(2015.01.23 バーカウンター完成)

 

先週の月曜日から丸一週間、再び工事中の京都店に滞在した。工事が進んだ現場を見ながらデザインやwebの制作を進めるというのが今回の主な目的だ。

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written by:
石崎嵩人…Backpackers’ Japan取締役。デザイン広報web周りの情報発信を担当。現在は月に一、二度京都に足を運ぶ。

 

 

前回以来、約20日ぶりの来訪。壁と柱以外空っぽだった1Fラウンジには北海道から来た栓の木がカウンターとしてどんと鎮座していて、向こうの壁には真っ白なタイルが並べられている。壁の左官も方々で進んでいて仕上がりが見えてきたところも多い。

人員の方で言っても、京都店の立ち上げメンバーが全員集合し、大工さんや職人さんたちは現在十数名が作業中。長期間泊まり込みで手伝ってくれる友人もいて、人の様子だけ見てもかなり活気のある現場に変化していた。

僕の滞在中にも、現場の風景は毎日変化していく。エントランスのファサードが組み立つまでに一日、ガラスが入るまでに一日、柱型の左官を終えるのに一日、と日々がまさに完成までの歩みであった。

 

今回の滞在中最後の作業日となる土曜日、ついにラウンジのバーカウンターが仕上がった。施行をしたヒデさんは「これは実際にカウンターに立つ人で」とオイルとハケを渡してくれて、カフェに立つ岩井君、バーに立つ古里君、キッチンに立つタケトさんがそれを隅々に塗っていく。

ラウンジの命ともなるカウンター。ここでこれから何千何万という人がここでコーヒーを頼み、ご飯を食べ、お酒を飲み交わす。この木はこの場所でどんな風景を見ていくだろう。

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ヒデさん…新潟出身北海道倶知安在住のログビルダー。京都店では木の選定から搬入、チェーンソーを使っての加工を依頼している。Nui.のカウンター施行もヒデさん。

 

 

オイルの塗り終わる頃を見計らって、ヒデさんが現場の全員を1Fに呼んだ。ある儀礼を取り行うためだ。後片付けする手を止め、スタッフ、大工さん、職人さん、お手伝いさんがラウンジに集合した。

仕上がったカウンターを見渡せる場所で列になり、屹立して静まる。ヒデさんが前に出て、その先導に続く形で一斉に拝礼をする。それから棟梁のなべさん・くわさん、カウンターの施行をしたヒデさん、代表の本間で一杯ずつお酒を頂き、僕らは黙ってその様子を見守る。

 

その風景を見ながら、僕はNui.のバーカウンターが出来た時のことを思い出していた。

 

「これだけ、みんなでやらせてください」と、その時もヒデさんが取り仕切ってくれて、仕上がったNui.のカウンターの前にその日いた全員が集まった。声を掛けてくれる時のヒデさんの声はどこか神妙で、普段はチェーンソーを担ぐ大胆な姿ばかりだったので、その様子にどこか虚をつかれるようなところがあったのを今でも覚えている。

なんだろうと思っていると。「何十年もの間命を育み大きくなっていった木を、この場所で使わせてもらうことにお礼をします」とヒデさんは説明してくれた。様式こそ倣うものの、神様にというわけではなく、生命そのものに捧げられる礼拝なのだというようなことをその時思った。

 

それから二年半年後となる今回、再び僕らはヒデさんの先導で柏手を打ち、深く頭を下げた。祈るような気持ち。慌ただしい日々の工事の日々の最中、これほど心を落ち着かせて全員で事に向かうことはこれ以上無いかもしれない。一通り終えて、ヒデさんは皆の方を向き直り「ありがとうございました」と優しく笑った。

 

そのあとはそれぞれ、仕上がったカウンターを眺めたり後片付けに戻ったりした。カウンターが仕上がるということはヒデさんの京都店での仕事はここで一旦終わり。僕はありがとうございましたと言いにヒデさんのところへと向かった。

 

「この木はもう、みんなのものだからね。今日までは俺のものだったけど、もう、みんなのものだから」

 

挨拶をすると、ヒデさんはそう言っていつものように顔全体でくしゃっと笑っていたけど、目には涙が浮かんでいるように見えた。僕は最後にもう一度握手をした。

それからヒデさんは皆と同様にその場を離れたけれど、僕はなんだかたまらない気持ちで、僕がその言葉を受け取ってしまっていいのかという気持ちもあって、しばらくカウンターを眺めていた。

 

僕も次の日からまたしばらく東京に戻る。けれど、ヒデさんのその表情も、「みんなのものだから」の言葉も、京都のメンバーに改めて伝えるのもなんだか野暮な気がして、帰り際一人一人に「よろしくお願いします」と礼をするだけにした。

それに、Nui.の時にそうだったみたいに、出来たばかりのカウンターにああして頭を下げることで、その人の拝む背中を見るだけで、ヒデさんの思いは伝わっているとも思う。こういう瞬間こそが出発点になる。今回もあの場に居れてよかった。

 

今でも、東京に戻って来てからも、ヒデさんとのことを思い出すだけで、この人達と仕事が出来て本当によかったと思える。本当に、ありがとうございました。