ROASTERY
【農園訪問記2023:知らないこと、知っていくこと】
2025/07/05
「自然であること、環境にやさしいこと。ナチュラルの語源はそこから来ている。」
いちロースターとして恥ずかしいが、私はグアテマラに来て初めて、コーヒーにおける「ナチュラル」という言葉の意味を知った。フレディは、ナチュラル製法しか行わないグアテマラの生産者の一人だ。
彼は「水資源を使わず、環境を汚さずに精製できるナチュラルが一番いい」と考えている。
環境にとっていいから、それを選ぶ。そんな価値観を持つ人がグアテマラには多くいることを、初日から感じた。

(平地にずらっと並ぶコーヒーノキ。コモディティ農園ならではの風景)
私が知らないことはまだまだたくさんある。でもそれを引け目に感じるのではなく、大切に受け止めてひとつひとつ自分の目で見て知っていきたい。
Primaveraのドライミルを見学した後、私たちはナディーンとクリスの案内で標高1000〜1300mの位置に広がる大規模農園を訪れた。普段、私たちが扱っているのは小規模生産者のクオリティの高いコーヒーだけれど、今回はあえてさまざまな規模・環境の農園を見て回ることになった。
私が想像するコーヒー農園は急斜面にコーヒーの木が密集しているようなものだったが、ここは緩やかな斜面が続く開けた土地で、その斜面に沿って規則正しくコーヒーの木が植えられていた。
「大規模農園」と聞くと機械で一気に収穫するイメージがあるが、ここでは機械を使わず「ピッカー」と呼ばれる人たちが手作業でチェリーを摘んでいるという。収穫期には約400人ものピッカーが集まるそうだ。
「賃金は決して高くないし、若い人たちは都会へ出てしまう。ピッカー不足が、ここ最大の課題なんです」
整然とした農園の美しさの裏にある現実を、生産者からの生の言葉で知る。
ピッカーが不足すると適切なタイミングでチェリーを摘み取ることができず、せっかく育ったコーヒーチェリーの収穫適期を逃してしまう。

(黄緑色のベイビーバナナツリー。ここからわずか1か月で大人のバナナツリーになる。 成長が早いことも、シェードツリーとして重要なポイント)
初めて見る農園だったので些細なことにも感心することが多かった。
たとえばバナナの木。バナナの木は成長する際にコーヒーの木に必要な栄養を吸い取らずに育つため、シェードツリー(=日陰樹)として最適だという。さらには、大きな葉っぱが影を生み出し土壌中の水分が蒸発しにくくなる働きをしたり、バナナの実は生産者の食卓に並んだり、収穫してローカルマーケットへ販売することで収入源にもなったりと、さまざまな活躍をしてくれる。

(道端に落ちている緑色のバナナ。のちにトラックで回収し、ローカルマーケットで販売される)
農園をずっと歩いていくと、突き当たりにウェットミルがあった。10人くらいが滞在できるゲストハウスのような小屋が隣にあり、普段はここでピッカーさんたちが休憩しているようだ。私たちはそこでランチをいただきながら生産者の方々と話す時間が持てた。

(ナディーンが朝早くに作ってくれたサンドイッチ。農園のみんなといただく)
ここで作られているのは、Primaveraでも扱っていないややランクの低いコーヒーだ。それでも生産者たちは真摯にコーヒーに向き合い、少しでも美味しいものをたくさん作ろうとしていた。こうした豆は大手飲料メーカーの缶コーヒーやインスタントコーヒーにも使用され、彼らの努力がそれらのコーヒーのクオリティを作り出している。
普段から自分たちがスペシャルティコーヒーを扱っていると、ついそれが当たり前のように思ってしまう。でも実際には、グアテマラだけでなく世界中で生産されているコーヒーの大半は、スペシャルティではなく“コモディティコーヒー”と呼ばれる大量生産・大量消費向けのコーヒーである。
私がこの日この農園で知ったのは、スペシャルティという狭き門の外で奮闘する人々への想いだった。
私たちが扱うのは、いわばピラミッドの頂点にあるような豆だ。その一方で標高が低かったり、生産環境に恵まれていなかったりしてもコーヒーに情熱を注ぎ、生活を支えようと頑張っている生産者たちがいる。
たとえ私たちの店で扱うことがないコーヒーだったとしても、彼らの努力に、そして存在に、改めて深い敬意を感じた。
by 西村



