SCROLL

ROASTERY

【農園訪問記2023:La Corina農園へ】

2025/07/28

昨晩、大規模農園からホテルに戻ったあと、今回の渡航メンバーとの自己紹介を兼ねた「チェックイン」と呼ばれる会が開かれた。お互いのお店の話や自身の経歴について一通り説明したあと、今回の旅の目的について話し合い、これから数日間を共に過ごす仲間として、お互いの理解を深める時間となった。
初めての農園訪問で右も左も分からないなか、自分なりに掲げた目標は「“知らないこと”を知っていく」というシンプルなものだった。
生産者にとって、持続可能なコーヒービジネスとは何か。コーヒーの味わいに大きな影響を与える要素とは?精製の方法や、生産者の暮らしについて。

私自身、BERTH COFFEE ROASTERY Haruを立ち上げてから2年が経とうとしているが、コーヒーの抽出や焙煎に関してはまだまだ勉強中。ましてや生産国に関することは、これまでインターネットなどで得た知識だけで、実際に自分の目で見るのは昨日が初めてだった。
だからこそ、まずは「自分は何も知らない」という事実を受け入れ、一歩ずつ着実に学んでいきたいと思っている。

翌朝、参加メンバーでコーヒーを淹れ合いながら朝食を楽しんだあと、私たちはチマルテナンゴ地域にある、標高1,800mのLa Colina農園へ向かった。アンティグアのホテルから車で約2時間の道のりだ。出発してすぐ、車窓からはアンティグアの美しい街並みを楽しむことができた。

(ホテルを一歩出ると、アンティグアの街並みにはスペイン統治時代の名残があり、カラフルな建物が立ち並ぶ。中でもアーチ式の時計台「エル・アルコ」がひときわ目を引く)

1時間ほど走ると舗装されていない上り坂に差しかかり、車の揺れや風景から、標高がどんどん上がっていくのを実感した。農園がある山のふもとの町までは大きめのバスで移動し、そこからは小さなトラックの荷台に乗り、農園への道を進む。

荷台で揺られること約20分。La Colina農園に到着すると、農園主のアントニオがウェルカムコーヒーやフルーツ、トルティーヤを用意して迎えてくれた。農園内には、コーヒーチェリーが発酵した甘酸っぱい香りが立ち込めていた。


小休憩の後、アントニオと共に農園を見て回る。La Colinaとは「丘」を意味し、この一帯に広がる土地すべてがLa Colina農園だという。ここからの景色は見晴らしがよく、遠くの街並みまで見下ろすことができた。

アントニオはコーヒーの生産だけでなく、国からの補助を受けながら原生林の保全にも取り組んでいる。コーヒーの木が生える場所ではできるだけ除草剤を使わず、生態系への影響を極力抑え、森に配慮した農法を実践している。

除草剤を使わないことで、土の中の菌が生き続ける。豊かな土壌とは、さまざまな菌や植物、動物が共存している状態のこと。そうした多様性のある環境では、コーヒーの木も元気に育つのだという。
また、針葉樹だけでなく、大きな葉を持つ木々も多く植えられていた。昨日見た農園ではバナナの葉をシェードツリーとして使っていたが、ここではまた違う種類の木が活用されていた。
標高が高くなるにつれて、周囲の草木も変化していく。農園でシェードツリーとして育てられている植物も、標高や立地によって異なるようだ。

一面に広がるコーヒーの木々は、葉が下を向いていて一見元気がないようにも見える。グアテマラでは一般的に10月から翌年4月頃までが乾季で、近頃は雨が降っていないため、葉がしおれているのは珍しいことではないそうだ。乾季にはあえて水を与えず、植物にストレスをかけることで、雨季に実る果実の品質を高めるという手法をとっていると、ナディーンが教えてくれた。

近くで収穫をしていたピッカーの方に教えていただき、私たちも実際に収穫を体験させてもらった。

初めてコーヒーチェリーに触れたときは、それだけで感動的だった。チェリーという名の表す通りまるでサクランボのような果実だが、実の付き方が特徴だ。10個ほどの実がかたまり、2〜3cm間隔で連なっている。まずは腰にカゴを巻き付け、斜面を登りながら完熟したチェリーのみを摘んでいく。



赤というより、やや赤紫に近い色が完熟のサイン。完熟チェリーを見つけたら、親指の腹で優しくひねればポロっと取れる。完熟のみを選んでいるつもりでも、カゴの中を見ると色はまばらで、思うようにきれいには収穫できなかった。

急な斜面に木が生えているため、バランスの取れる足場を探し、木につかまりながら収穫を進める。チェリーがカゴにたまるにつれて、どんどん重くなっていくので、ただ立っているだけでもひと苦労だった。

わずか1時間で足腰が悲鳴を上げそうになり、これを毎日こなすピッカーの皆さんの技術と体力を身をもって実感した。La Colina農園では、収穫のピークシーズンには約40名のピッカーが集まるという。

収穫中、ふとチェリーの味が気になり、ひとつ口にしてみた。ライチのような甘みが広がり、酸味はほとんどない。外皮はやや固く、少し渋みがある。決してまずくはないが、独特の風味があり、果物として販売するのは難しそうだ。
収穫体験のあとは、ウェットミル(発酵タンクや果肉除去機がある工程)を見学。

(この機械は「パルパー」と呼ばれる果肉除去機で、チェリーを入れると果肉と種を分けてくれる)

まず、収穫されたチェリーは水を張ったタンクに入れられ、浮かんでくる軽いチェリーやごみを取り除く。その後、パルパーで果肉を除去。除去された果肉はカスカラ*や肥料に再利用されるなど、農園内で資源が循環する仕組みが整っている。
*カスカラ……本来はコーヒーチェリーの果肉や外皮を表す言葉。乾燥させてお茶のように飲むこともある。ほんのり甘く、ドライフルーツのような味わいが特徴。

果肉を除去した豆は、粘液質(ミューシレージ)をつけたままの状態で約36時間発酵させる。

この工程では水を使わずに種だけを発酵させる「乾式発酵(ドライファーメンテーション)」が行われており、これによってグアテマラらしいフルーティーで明るい酸味が生まれるという。

発酵の終わりを見極めるのは、アントニオの長年の経験。タンクに刺した木の棒を抜いたとき、跡が残るかどうかで判断しているそうだ。タンクの水も何度も再利用されるなど、水資源の節約の工夫が随所に見られた。

隣には「パティオ」と呼ばれるコンクリートの乾燥台があり、発酵と洗浄を終えた豆をここで乾燥させる。
広げられたコーヒー豆の量はおよそ4,600kgにものぼる。この大量の豆を毎日30分〜1時間おきに均一にかき混ぜながら、10〜14日かけてじっくりと乾燥させていく。


私たちも木のヘラでかき混ぜる作業を手伝わせてもらったが、炎天下の中でこの作業を毎日行うのは本当に大変なことだと痛感した。

ウェットミルで規格外としてはじかれた豆は、パティオの隣に敷かれたビニールシートの上に広げられ、スペシャルティランクではなく、ローカル市場向けのコモディティコーヒーとして販売される。

La Colinaで作られるコーヒーは、捨てる部分がほとんどなく、すべてが何らかの形で活用されていることに驚かされた。グアテマラの生産者が環境負荷を考えながら生産に取り組んでいる姿勢がとても印象的だった。

農園見学を終え、アントニオの奥さんが手作りしてくれた牛肉のスープや蒸し野菜、アボカド、チーズなどのグアテマラ家庭料理を囲んでランチタイム。

その後、ロースターたちからアントニオへの質問タイムが設けられた。特に印象的だったのは「最近流行りのアナエロビック発酵はやらないの?」という質問に対する彼の答えだった。

アナエロビック発酵とは、酸素を遮断した密閉環境で行う発酵方法で、これによって独特で華やかなフレーバーが引き出される一方、豆本来のテロワールの味わいが奥に隠れてしまうこともある。

アントニオはこの質問に対し、「自分たちのコーヒーを飲めばわかるよ」とだけ答えた。それは品質とプロセスに誇りを持ち、ウォッシュドだけで勝負している彼だからこそ言える言葉だった。

La Colina農園で過ごした1日は、コーヒー生産と自然のつながり、そして作り手の思いを改めて感じさせてくれる貴重な時間となった。

明日は、実際にPrimaveraのカッピングラボで彼のコーヒーをテイスティングする予定。アントニオの言葉の意味を、自分の舌で確かめるのが今から楽しみだ。

by 西村