INTERVIEW

おせっかいと愛。誰かの見えない声をすくい上げること —— Each Perspective Vol.2 松本花菜 × 松田鉄矢

海外にいるかのようなオープンで穏やかな空気感。和気あいあいと楽しそうに働くスタッフ。そこに上下関係はなく、それぞれがフラットな関係性で、何をやるか、どうやるかを話し合いながら運営しているという。

他の宿泊・飲食業と比べても独特な文化の源泉はどこにあるのだろうか。Backpackers' Japanで働くスタッフ一人ひとりに焦点をあてたインタビュー集 "Each Perspective"

今回は、東京・蔵前のホステル「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」のレセプションで働くお二人に話を伺います。

松本 花菜 | Kana Matsumoto

兵庫県出身。Backpackers' Japanへの入社を機に上京。Nui.にてレセプションを中心に3年ほど働いたのち、現在は、経理・総務として勤務。懐かしいものが好き。

松田 鉄矢 | Tetsuya Matsuda

沖縄県出身。2000年生まれ。旅と写真、語学が好き。留学やバックパッカーを経て、Nui.に漂着。よく人たらしと言われます。

 

働く人と訪れる人が、なめらかに混ざる場所

—— まず、お二人のことを簡単に教えていただけますか?

松本:私はNui.に入って3年3ヶ月が経ちます。入社してからはずっとレセプションを担当していたのですが、今年の2月から、会社全体のバックオフィスを担うサポートセンターに異動して、経理と労務の仕事をしています。1996年生まれで、兵庫県の姫路出身です。

松田:僕はレセプションとメンテナンスなど、ホステルに関わる業務全般を担当しています。出身は沖縄県の宜野湾というところで、海まで歩いて5分のところに住んでいました。2000年生まれの23歳です。

あとは、Nui.の仕事と並行して個人事業主としても仕事をしていて、文章や写真、デザインなどを中心に企業や個人のSNSアカウントのクリエイティブ面を整えるお手伝いをしています。

—— お二人がNui.で働くことになったきっかけは?

松本:私は高校を卒業して外語専門学校に入りました。外国語を使った仕事に就くための学校ですね。国際ホテルや通訳の仕事、留学前の語学勉強など、さまざまな学科がありましたが、私は空港のグランドスタッフに興味があったので、航空関係の学科に入りました。

—— なぜ、空港のグランドスタッフに興味が?

松本:国籍も年齢も違う多様な人たちと関われるというのが大きな理由でしたね。学生時代も人と関わるバイトばかりしていて。それがすごく楽しかったですし、自分には接客の仕事が向いているんだろうなあと思っていました。

専門学校を卒業し、20歳からは関西国際空港でグランドスタッフとして働いていました。空港カウンターや搭乗ゲートで接客をするのが主な仕事です。会社や仕事にネガティブな思いは特になかったんですが、3年ほど働いたときに「そろそろ、もういいかな」と気持ちが落ち着いてきて。そのタイミングでNui.に応募して、採用が決まったタイミングで上京してきました。

—— 当時、Nui.のことを知ったきっかけは?

松本:たまたま旅行先で知り合った人に教えてもらったんです。その後、東京に遊びにきたときに初めて宿泊したんですが、スタッフとゲストの垣根がまったくないように感じたんですよね。他の宿と比べてもその自由な雰囲気がとても印象的で。そこで働く人とそこに訪れる人がとても自然に、なめらかに混ざっているような気がしました。

—— 空港のグランドスタッフとNui.のレセプション、どちらも接客の仕事ですが、お客さんとの距離感や向き合い方に違いがありそうですよね。

松本:確かにそうかもしれません。前職はマニュアルに沿って、お客さんが求めていることをするのが基本でした。いま思うと、自分にとってはそれが窮屈だったのかもしれません。嫌ではなかったけど、自分がその仕事をする必然性を見出しにくかったというか。

対照的に、Nui.には基本的にマニュアルはありません。その分、これをやっておけば大丈夫という最低ラインもない。だから「毎回どうしたらゲストが喜んでくれるか、今なにを必要としているか」ということを新鮮な気持ちで考えられるのかもしれませんね。

 

幼いころから身近にあった旅に関わる仕事を

—— 松田さんがNui.で働くことになったきっかけは?

松田:初めて泊まったBackpackers' Japanのホステルは、京都のLenでした。ラウンジの雰囲気も含めて、とてもいい空間だと思ったのを覚えています。

当時は地元の沖縄を拠点に、全国各地を転々とするフリーランスのような働き方をしていたんですが、Nui.に入る前の1年間は、仕事に追われてやりたいことを見失っていました。

そのとき改めて、自分が好きなことについて考えたときに、海外や旅という言葉が浮かんできて。そこで好きなことを仕事にすることにトライしようと、Nui.の採用に応募しました。

 

—— 松田さんが旅を好きになったきっかけは?

松田:小さいころから、旅が身近にあったというのが大きいと思います。両親が若いときにツアーコンダクターをやっていたり、姉が留学してたり、親戚が海外に住んでいたり、知り合いが海外の大学に行っていたり。そんな環境もあって、高校も自然と英語科を選びましたね。

ありがたいことに高校のときに2回ほど海外にいく機会があって。どちらも県、国が主催する国際プログラムへの参加だったんですが、1回目はスリランカ、2回目はアメリカのロサンゼルスに行きました。

スリランカでは、歴史を踏まえてその国の文化を理解することを学び、ロサンゼルスでは、ユニークで多様な文化に触れて、どちらもとてもエキサイティングな経験でした。

それがきっかけで、帰国してからも、大学生や大人に混ざって色々なイベントにいくようになったり、興味のある分野のオンライン講義なども受けるようになったり、より自分が能動的に変化していったような気がします。

 

—— Nui.のレセプションの仕事と個人でのクリエイティブの仕事には、だいぶ振り幅があるような気がしますが、その二つをどう捉えていますか?

松田:クリエイティブの仕事は、良くも悪くもパソコン上で完結することが多いので、基本的にはずっと画面越しです。それに対して、Nui.の仕事はフィジカルじゃないと成り立たない。それぞれにいいところがあるので、生活にデジタルとフィジカルの仕事がどちらもあることによって、自分のバランスが取れてるような気がします。

もともと人としゃべることが好きですし、言語が好きなので、知っている言語をNui.で使う機会があるのも楽しいですね。ピンポイントでそのゲストの母国語で声を掛けたりすると、驚きながらもとても喜んでくれるので、こちらも嬉しくなります。

 

安心できるステイのために、あらゆるケアをする仕事

—— レセプションの仕事について、もう少し詳しく教えてもらえますか?

松本:レセプションの仕事を一言でいうと、ゲストが安心して滞在できるようにあらゆるケアをする仕事です。具体的には、チェックインとチェックアウトの対応やホステルの予約管理、ゲストに何か困りごとが発生したときに相談を受ける役割という感じです。

レセプションは、ゲストがホステルで一番初めに会うことが多いスタッフなので、たぶんその滞在中に何か困ったことがあったら、とりあえずあの人に相談してみようとなると思うんです。

そんなライフラインのような人がちゃんと信頼できるかどうかって、安心できるステイのためにとても大切なことだと思っていて。ゲストと接するときに、話しかけやすいけど、ちゃんと信頼をしてもらえるというバランスがとれるといいなと思っています。

松田:それから、これはNui.のレセプション独自の役割なんですが、実はラウンジ(飲食スペース)のホールの役割も兼任しているんです。

ホステルの受付とラウンジが物理的に同じ空間ということもあって、レセプションの業務の手が空いたときには、料理をサーブしたりお皿を下げたり、レジ打ちに入ったりしています。

松本:そうそう、忘れてた。私はラウンジを歩き回ることを「お散歩」と呼んでるんですが、歩き回りながら、その場に足りていない役割や誰かが必要としていることを拾い集めるようなイメージでホール業務をしています。

—— お散歩っていいですね。シフトの日の1日の流れを教えてください

松田:レセプションには、朝シフトと夜シフトの二つがあります。朝シフトは8時から17時で、主にチェックアウトや荷物の預かり、カフェのホール業務などをします。

夜シフトは16時から25時で、主にチェックインの対応と滞在しているゲストに困りごとがあったときの相談役、そしてバーのホール業務をしています。時間帯が違うだけで、基本的にはやることは大きく変わらないですね。

単純に好きだから、気になるし助けたいと思う

—— 普段、仕事をするときに意識していることはありますか?

松本:意識しているってほどじゃないんですが、けっこう他のセクションのスタッフのことは気にかけているかもしれません。

松田:基本おせっかいだもんね(笑)それでいうとおせっかいが好きな人は、Nui.のレセプションは向いているのかも。

松本:たしかに。他のセクションの忙しさはもちろんなんですが「この子、今日あんまり元気ないな」とか、気持ちの浮き沈みまで気にしちゃうかもしれないです。

松田:全体を見渡して、忙しいときは手が足りていない仕事を手伝ったり、調子がよくない人に声をかけたりしてるよね。求められていないけど、相手が喜びそうなことをするのがおせっかいだとすると、Nui.のレセプションはいい意味でそれが発揮しやすい環境なのかもしれないですね。

—— 松本さんのおせっかいはいつから?

松本:それでいうと自覚したのは、Nui.で働き始めてからなんですよね。なんかNui.のメンバーってそれぞれが自分らしさをちゃんと出していて。それにつられて私も個性が出ているのかもしれません。

あとは単純にスタッフみんなのことが好きなんです。みんな良さがばらばらで、その分苦手なこともある。完璧じゃないからチャーミングだし、欠けているところが人間らしくて、それをさらけ出したそのままの姿がとても愛おしく感じるんです。だからできるだけみんなを助けたいなって。

松田:ゲストであっても、同僚であっても、その場にいる人のことをいつも気にかけて、何かできることがないか考えてる。なんというかそれってもう愛だよね。

—— Nui.で働いていて働きがいを感じる瞬間はありますか?

松田:僕はおしゃべり好きが転じて、ゲストともコミュニケーションをとるんですが、仲良くなった人にプレゼントをもらうことがけっこうあるんです。そのゲストの国のコインやお札、ときにはバックパックのワッペンをその場で剥がしてプレゼントしてくれることもあったりして。

ゲストとの関わりの中で、世の中に旅を増やすということに関われている気がするし、忙しくてもそういう瞬間があるととても嬉しくなります。自分が旅人だった経験もあるので、ゲストがどうされたら嬉しいかを無意識に考えているのかもしれませんね。

自分と会社が重なって、またそこからひろがっていく

—— 最後にお二人がこれからトライしたいことについて教えてください。

松田:僕は人が好きなので、何かに熱を持ってチャンレンジする人を応援する仕事をしようと思っています。いまの仕事の延長線上で、少しずつ始められる準備をしているところです。

あとは、海外で生活したり、働いたりすることですね。もともと海外は好きでしたが、コロナ禍でそれが物理的に難しくなってしまって。その間にまた力を蓄えることができたので、もう一度海外での生活にトライしてみたいと思っています。

松本:私は、今年の2月から新しく始めた経理と労務の仕事ですね。これまでは現場のゲストに一番近いところで、会社をみていましたが、これからはまた違った視点で会社を見れることが楽しみです。

 

—— 経理や労務の仕事をやることになった経緯は?

松本:ちょうど前職をやめたときと同じような感覚で、3年ほど働いて、このまま今の会社やスタッフと関わりながら、新しいことに挑戦したいと感じていたタイミングだったんです。そのとき偶然、経理のポジションの社内公募があって、応募しました。

前職もそうですし、これまでは接客とか人と関わる仕事が向いていると思ってやってきたんですが、実は一つのことを地道にコツコツやるのも好きなんです。誰かを裏でサポートしたり、自分のそういう裏方としての可能性も試してみたいなと思っています。

—— 接客と経理、同じ会社でもまったく違う性質の仕事ですもんね。

松本:本当にそうですよね。社内でこれまでと全然違う仕事をする選択肢があるのって、すごくありがたいなと思っています。ポジションが変われば、いままで見えてなかったものが見えてくるかもしれないし、それが自分の可能性を広げることにもなりそうです。

あとは少しずつ個人の活動も始めていけたらいいなと思っています。もともと文章を読むことや書くことが好きなので、いつか自分の書いたものをひとつの形にしたいですね。何かをつくったらNui.に置いてもらうこともできますし、自分と会社の活動が重なって、またそこからひろがっていくことも楽しみなことの一つですね。

 

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Planner / Editor / Writer

なかごみ

Brand Editor / Communication Designer として、複数の会社の事業・ブランド開発やコミュニケーション領域に、戦略から実行まで関わる。デザイン会社でのUXデザイナー、アパレルブランドでのコミュニケーション責任者、新規事業責任者を経て、フリーランスとして独立。好きなお酒は、ビールとワイン。

Photographer

Keika Hamada

1994年生まれ。日中ハーフ、中国育ち。英国ウエストミンスター大学写真学科に短期留学後、アーティストアシスタントやデザイン会社で経験を積み、現在Backpackers’ Japanで飲食と人事制度設計業務を兼任。たまにイラスト描いたり写真撮ったりしてます。スパイシーなものが好き。