INTERVIEW

Nui.で触れる日常が、自分の中の「良い風景」になった —— Each Perspective Vol.7 Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE 西田裕紀

海外にいるかのようなオープンで穏やかな空気感。和気あいあいと楽しそうに働くスタッフ。そこに上下関係はなく、それぞれがフラットな関係性で、何をやるか、どうやるかを話し合いながら運営しているという。

他の宿泊・飲食業と比べても独特な文化の源泉はどこにあるのだろうか。Backpackers' Japanで働くスタッフ一人ひとりに焦点をあてたインタビュー集 "Each Perspective"。

今回は、東京・蔵前のホステル「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」のCoach、レセプションとして働く西田さんに話を伺います。

西田裕紀 | Yuki Nishida

アパレルメーカー、Webマーケティング会社を経て、2023年12月にBackpackers' Japanへ入社。現在はNui.のCoach*として、レセプションを中心に店舗運営全体に携わる。将来は人が自然と集まる「居場所」のような場をつくることを目標に、日々現場と向き合っている。K-POPを聴いたり、本を読みながらゆっくり過ごすのが好き
*Coach:Backpackers' Japanの組織体系「Co-Management」における、店舗スタッフのサポートや全体把握を行う役割

心地いいコミュニケーションとの出会い

—— まず、簡単に自己紹介をお願いします。

西田 :西田裕紀です。大阪出身で、ラグビーの街、東大阪市で生まれ育ちました。今は29歳です。大学を出て就職した会社は福井に本社があり、1年半だけ福井に住んでいました。その後に転勤で大阪に戻ってきて、そこからまた1年半働いて、2社目に転職。その転職のタイミングで上京してきました。

—— 最初の会社は、何の会社だったんですか?

西田:アパレル業界の中でも、リボンや紐といった服飾副資材を扱う業界のメーカーに入社しました。服づくりにおいて表には出にくい部分ですが、仕上がりの印象や価値を左右する重要なパーツを扱う仕事でした。

—— 服飾副資材の会社に入ろうと思ったきっかけはあったんでしょうか?

西田:入社した会社は国内で高いシェアを持ち、かつ海外展開も積極的に行っており、海外拠点で働く機会がある環境でした。高校時代から「海外で働きたい」という思いがあったのと、アパレル業界への関心とも重なり、その実現可能性を感じて入社を決めました。

—— そういう経緯があったんですね。なぜ「海外で働きたい」と思ったんでしょう?

西田:もともとは英語が全くできなかったんですけど、高校生の時に仲のいい友人が実は英語がペラペラだったというのを知る機会があって。単純に「かっこいい!」と思って自分もできるようになりたくて勉強をしました。そしたら勉強をしているうちに英語が好きになって、大学で外国語学部に入って学ぶうちに、「将来いつか海外で働きたい」という想いが沸いてきたんです。大学時代にはオーストラリアに留学もしましたし、3年生の春休みにはニューヨークにインターンに行って、そこが最終的に新卒で入社した会社になりました。

—— えっ、ニューヨークでインターン!?

西田:さっきお話ししたように、アパレル業界で海外赴任もある会社を探していたら見つけたんです。試しに働きに行こうと思って、ニューヨーク支店のインターンに応募しました。この経験が、そのまま最初のキャリア選択に繋がりました。

—— 最初の会社では、どういう仕事をしていたんですか?

西田:営業職として、主にスポーツメーカーやアウトドアブランドを担当していました。企業のデザイナーの方とやり取りをしながら、素材の提案や仕様のすり合わせを行うのが主な役割でした。ちょうどオリンピックの時期でもあり、代表選手団のユニフォームの一部にも、自社の素材が採用されていました。自分が関わったものが形になるのはやりがいでしたね。

—— とてもモチベーションが感じられそうな仕事ですね!でも、海外赴任をする前に退職を決めたんですよね。

西田:やりがいは感じていましたが、いくつか理由が重なって退職を決めました。一つ目は、自分自身のキャリアに対する違和感です。当初は「海外で働きたい」と思っていましたが、時間が経つにつれて、それは“働く”というより“海外で生活してみたい”という気持ちだったのかもしれないと感じるようになりました。それに加えて、このままでは汎用性のあるスキルが身につかないという危機感もありました。

また、福井で働いていた頃によく通っていたカフェがあって、知り合いの少ない環境の中で自然と人と繋がれる場所に救われた経験がありました。そのときから「こういう場には価値がある」と感じていて、いつか自分でもこういう場所を作りたいと思うようになりました。

自分の居場所を作るために必要なスキル

—— いろいろな経験を経て、やりたいことが変化していったんですね。

西田:そうですね。だからこそ2社目を選ぶときは、将来的にやりたいことを起点に考えました。将来、自分で場を作るときに活かせるような汎用性のあるスキルを身につけたいと考えて、ウェブマーケティングの会社に就職したんです。

—— 全く違う業界へのチャレンジですね。

西田:本当に大きなチャレンジでした。1社目は既存顧客への営業がメインだったので、すでに関係性がある中で有形商材をベースに提案ができていたんです。一方で2社目は新規顧客への営業が中心で、かつ扱うのは無形商材でした。関係性がない状態から信頼をつくり、自分の知識や思考そのものを価値として提案しないといけない。前提となるインプット量も含めて、求められるレベルがまったく違いました。

—— 聞いているだけで大変さが伝わってきます……。

西田:「営業」とは言いましたが、正確には営業とコンサルの中間のような仕事をしていたんです。商談に臨む前に、クライアントの業界や競合を調べ、仮説を立てて、実際に話を聞きながら課題を特定していく。そこから施策を考えて提案する、という仕事の流れでした。ノウハウもなく、業界理解もイチからのスタートだったので、出社前や帰宅後に勉強をすることもありました。業務量もかなり多く、単純に夜中まで仕事をしていることもありましたね……。

—— えっ……!かなり過酷そうな労働環境ですね。その会社ではどれくらいの期間働いていたんですか?

西田:1年8ヶ月ほどです。後半の8ヶ月は人事も兼任していて、新卒採用の設計や説明会の実施を担当していました。かなり大変ではありましたが、結果的に営業だけでなく、人を見る視点や組織を考える視点も身についたのは大きかったと思います。


—— それだけやりがいもあり意欲を持って働いていた中で、退職のきっかけは何かあったんでしょうか?

西田:「限界かもしれない」と感じたことが大きかったですね。ちょうどその頃、友人の結婚式で大阪に帰ることが多くて。東京に戻る新幹線で、急に涙が止まらなくなってしまったんです。そこで初めて、「自分は今、無理をしているんだな」と気づきました。一通りやり切ったという感覚があったこともあり退職を決め、その後すぐに次のキャリアを探し始めました。

「今は経験を買うべき時」、接客業への挑戦

—— それは大変でしたね……。Nui.(Backpackers' Japan)への入社の経緯をお伺いできますか?

西田:そうですね。人が集まる場所を作りたいとは思っていたんですが、人が集まる場所といってもいろんな場所があるじゃないですか。その中で自分にできるものってなんだろうと考えた時に、宿のレセプションかもしれないと思って。それが本当に自分に向いてるかはわからないけど、飲食と宿泊が一体となってひとつの場所になっているのはすごいなと。Nui.には4回ほど来たことはあって良いなと思っていて、同業態を他にも探しながらNui.に応募しました。


—— 正直、待遇面や働き方もかなり変わったと思いますが、飛び込むことに躊躇はなかったですか?

西田:迷いはありました。特に給与面は大きかったですね。ただ、その時は「今は経験を買うべきタイミングだな」と思ったんです。将来、自分がどんな場所を作りたいのかもまだ明確ではなかったですし、そもそも接客業が自分に向いているかも分からなかったので、一度ちゃんと現場に入ってみようと。もし違うと思ったら、その時はまた別の選択をすればいい、という感覚で飛び込みました。

—— 入社した時の所属セクションは、レセプションですか?

西田:レセプションとメンテナンスの両方で、入社直後はメンテナンス業務からスタートしました。メンテナンスは、空間が綺麗になることでゲスト満足度が上がるのがわかりやすくて、やりがいもありました。メンテナンス業務のみの期間中も、現場目線での改善提案や小さな企画などは積極的に出すようにしていましたね。

ただ一方で、自分のこれまでの経験を踏まえると、もっと別の形でゲストに価値を提供できるのではないか、とも感じていました。ちょうどレセプションメンバーの退職も重なったタイミングで、もっと挑戦したいという思いが強くなり、当時のコーチに直談判してレセプションに入らせてもらいました。

—— 入社してすぐに業務が多岐にわたる中で、きついことはなかったですか?

西田:難しさという意味では、前職と比べるとそこまで大変には感じませんでした。やるべきことを覚えてそこからどう応用するか、というシンプルな構造だったので、むしろ楽しさの方が大きかったですね。レセプションに入っていて、「ラウンジ全体のサポートもたくさんやってくれて助かっている」などと言われたりすると、もっとみんなの力になりたいなと思うようになりました。今はレセプションを軸にしつつ、メンテナンスや、最近では夜のホールやキッチンに入ることもあります。単に業務をこなすというよりも、各セクションの状況を理解した上で、全体としてより良い運営になるように関わることを意識しています。

—— Backpackers' Japanに入ってみて、最初の印象はどうでしたか? 今までの会社ともまた全然違う働き方で、かつ周りのメンバーも全然違ったタイプの人たちが集まっているのではないかと思いますが。

西田:これまで働いていた環境は、業務や役割がある程度整理されていて、それぞれが決められた範囲の中で責任を果たす、いわゆる「会社組織」らしい形でした。一方でNui.は、そういった明確な型が良くも悪くもあまりなくて、個人の裁量やスタンスに委ねられている部分が大きい。その自由度の高さは想像していた以上で、最初は戸惑いもありました。ただその分、それぞれが自分なりの関わり方で働いていて、生き生きとしているのはすごくいいなとも感じました。

—— 会社や業務との関わり方が働く個人に委ねられているというのは、特に営業という職種に取り組んできた西田さんからするとかなりギャップに感じそうですね。

 西田:そうなんです。スタッフそれぞれの熱量やスタンスの違いを感じる場面があって、そこに対してどう向き合うかは最初は少し悩んだ部分でもありました。例えば、「ロール」と呼ばれる店舗における役割を担うかどうかは個人に委ねられているんです。他にも、提案をすることはできても本人がやりたくないと言ったらそれを強制することはできなかったり、個人の意思が尊重される分、組織としてどのように全体のバランスや推進力を失わないようにするかが最初は特に難しく感じました。前職までの経験もあって、「仕事は責任を持って成果を出すもの」という意識が強かったので、その分ギャップが大きかったのかもしれません。

—— その中で、西田さんはどのように業務に取り組んだり、他のスタッフと関わっていったのでしょうか?

西田:まずは自分がNui.のためにどういうことができるのかを提示することが大事だと思い、小さなことから提案することを始めました。一番最初にやったことは、ゲスト用の共用洗濯機に設置されている洗濯かごの問題解決でした。ゲストが使用した後に元の場所に返却されないことが多くて、次に使うゲストが困ったり、メンテナンスに入るスタッフの手間が増えたりしていて。そこで、カゴの底に「元の場所に戻してね」と記載したPOPを設置する提案をして実施してみました。すると、ちゃんと元の場所に戻してもらえるようになって、ゲストの不便さもメンテナンススタッフの業務負荷も改善されたんです。

—— 一見小さなアクションですが、ひとつひとつ解決していくことは大切なことですね。

西田:そうなんです。まずはそこからスタートして、メンテナンスのオペレーション、レセプションのオペレーションなど自分が担当している領域に関する改善を都度進めていきました。所属するセクションでそういった改善を進めていくと、なんとなく店舗全体で「西田ってそういう人」というイメージがついてきて、そうなったところを見計らって他のセクションにも少しずつ提案を始めて(笑) そうやって店舗全体の改善に少しずつ関われるようになっていきました。

お客さんとの日常的な関わりが楽しい


—— Nui.に入って、今までの自分の人生には無かったけどすごくいいなとか、新鮮だな、 と思ったことってありましたか?

西田 :そもそもアルバイト以外で飲食業や宿泊業のような接客業で働いたことがなかったので、Nui.に入って、お客さんとの関わりってこんなに楽しいんだ! という発見がありました。

—— それに気づいたのは、具体的にはどんなシーンだったんですか?「あの時のあの瞬間がすごく良かった」という経験なのか、なんてことない日常的なシーンで思ったのか。

西田:特別な出来事というよりは、日常の中で感じることが多かったです。Nui.は昼と夜で客層も空気感も大きく変わるんですが、夜は常連の方との関係性の中で、会話や距離感を踏まえたサービスを提供する心地よさがあります。一方で昼はもっとラフで、お客さんが流動する中で自然とコミュニケーションが生まれていく。その場の流れに合わせて関わり方を変えていく感覚も含めて、自分が求めていた飲食のあり方に近いなと感じました。

—— 自分が求めてたものはここにあるなと。

西田:Nui.に入社してから、Nui.の日常のなんてことないシーンで「この風景良いな」と思うようになりました。自分の中で「良い風景」だと思って思い浮かべるものが、気が付くとNui.の日常の風景になっていっている感覚があります。大きな空間の中でそれぞれが自分なりの過ごし方をしていて、その中で自然とコミュニケーションが生まれている。「室内だけど外のような開放感がある」というか、そのバランスがすごくいいなと思っています。そういう風景に日常的に触れているうちに、気が付いたら、Nui.で生まれるそういった風景が自分の中でのひとつの基準になっていました。


—— それは、すごく大きな感覚ですね。

西田:いつの間にか自分の中に浸透しているんでしょうね。

—— そういった体験も経て、このたびNui.のCoachに選任されたと思うのですが、具体的にはどういう経緯があったんでしょうか?

西田:Nui.という店舗がどうやったらもっと良くなるかを考えているうちに、BJ(Backpackers' Japanの略称)のことを好きになっちゃったんですよね。そうして関わる中で、自分自身ももっと店舗やスタッフの役に立てる立場になりたいと思うようになって。その時に公募があった社内の別業務に応募したこともありましたが、結局はNui.をみんなと一緒にもっと良くしていく、みんなを支える役割ができたらいいなと思ってCoachに立候補しました。

Nui.がみんなの居場所であり続けるために

 —— 実際にNui.のCoachになってみて、いかがですか?

西田:やりがいはとても大きいです。これまでも改善提案や新しい取り組みはしてきたんですが、実際に形にしていく難しさは感じていました。もちろん権限が欲しかったわけではなくて、みんなが「こうしたい」と思っていることを前に進める役割が必要だと思っていたんです。Coachになってからは、その後押しが以前よりできるようになり、より踏み込んだ改善や意思決定ができるようになったと感じます。

みんなの困りごとを解決したり、挑戦したいことを実現したり。そういう一つひとつを積み重ねながら、みんなが自然体で、気持ちよく働ける環境を作っていくことが、今の自分の役割だと考えています。

—— これからのNui.が楽しみですね。

西田:Nui.に入社してから「仕事に行きたくない」と感じたことが一度もなくて。だからこそ、この感覚をできるだけ多くの人にも感じてもらえる環境にしていきたいと思っています。スタッフそれぞれが、この場所で働く意味や手応えを感じながら、長く関わっていけるような環境にしていきたいです。人数が多い分、意見の違いやすれ違いが生まれることもありますが、そういった部分も含めて健全に循環させていくことが大事だと感じています。役職として関わるというよりも、一人の相談相手として、フラットに向き合い続けることを大切にしていきたいですね。

—— 最初におっしゃっていた、自分で場所を持ちたいという想いは変わらずありますか?

西田:はい、その想いは変わらずあります。今はNui.に全力で向き合いながら、自分が作りたい場所の解像度を上げている段階だと思っています。日々の営業の中で感じることや、良いと思う風景を言語化したり、蓄積していくこと。休みの日も含めて、「どういう場を作りたいのか」というのは常に考えています。

—— 最後になりますが、Coachとしてこれからより深く関わっていくNui.を、どういう場所にしていきたいですか?

西田:これからもNui.がみんなの居場所になっていけるように、頑張りたいなと思っています。これまで大切にされてきたものを、しっかりと受け継ぎながら、次に繋いでいきたいですね。スタッフが自然体で働けていて、ホステルとラウンジが一体になっているからこそ生まれる、カジュアルで心地よいコミュニケーションがあること。その空気の中で、人と人がゆるやかに繋がり、笑顔が生まれていくこと。これが受け継がれていけば、Nui.はもっと良い場所になりながらみんなの安心できる場所であり続けられると思います。

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企画 / 編集

宮村友海

前職の旅行系広告代理店を退職後、2019年暮れにBackpackers’ Japanに入社。Len京都河原町でのレセプション・バーテンダー勤務を経て、現在は企画・PRとして従事。住んだことがある場所は山口、北海道、京都(、尾道)。好きなものは太陽と流れる水と酒場。

撮影

高山奈々子

理系大学での学びを背景に、数値的な観点からSNS分析やマーケティングに取り組んできた。これまでは個人事業主として働きながら、BERTH COFFEEみなとみらいでバリスタとして現場に立つ。この春からは全社の人事領域にも関わり、現在はBackpackers’ Japanを軸にバリスタ業務と人事業務に取り組んでいる。