NOTES

雑記:素晴らしい怒涛の1年(第14期から15期へ)

最近人と話す中で「『仕事はどんなことしてるんですか?』についての上手い返答」についてが話題に上った。普段自分がしている仕事を、なんの前提知識の共有なく、初めて会った人に説明するのはけっこう難しい。

なのでみんな「正確には違うんだけどこう言っておけばなんとなく外縁ぐらいは伝わる言い回し」を準備しておいて、あとはそれをなぞりながらその場で微調整しているのだという。なるほど効率的。質問する人も別に仕事内容を正確に知りたくて問うてるわけではなく、「あなたのことを教えてよ」を言い換えているだけだから、その返答でコミュニケーションは十分に成立する。

一方、僕はというとそれらの質問が来るたびに毎回「いやあ、なにしてるんですかね」とか「それがね……ここだけの話、なんにもしてないんですよ……」とか言ってお茶を濁しているので「いやいや、なにもしてないわけないじゃないですか」みたいな余計なやり取りを生んでしまう。ただやりとりを増やすだけだし質問者に甘えてもいるのだけど、こういった緩衝を挟まないことには、どれだけうまく仕事を説明をしたところで、自分の普段の働きとは遠く離れたもの(ひいては別物の自分自身を)を伝えているだけに思えて気が進まない。

せっかくだから嘘なく自分の“感じ”を伝えたい!でも実際「どんな仕事をしてるか」なんてちゃんと説明できない。「今日は自社醸造ビールのラベルデザインのディレクションをしてから、半期に一度の新規事業の中長期ミーティング資料の見直し、設備投資の意見出しをして、見づらい社内資料のリデザインを進めて、新しく発表する福利厚生の内容の精査とライティングをしてました」ではとりとめないし「会社と事業のデザイン、ブランディング領域でいろいろやってますし組織づくりにも関わっています」では何も説明できていない。「へ〜すごいですね」などと返されるとそのあとなんと言っていいかわからなくなってしまう。

なので一度「いや〜なにもしてないんですよね、はは」と言ってみる。多岐に渡る仕事は人に説明するために一ヶ所に集まる際対消滅して消えてしまった、ごめんなさい。なかには「ええ〜〜いいなあ、わたしもそれがいいっすわ」みたいに返してくれる人もいて逆に許された気持ちになる。そうだ!最近はじめて行ったファミレスの話とかしませんか!?

 

こんな具合なので個人のSNSでも仕事の話はほとんどしたりしない。告知やお知らせはするけど、その場その場で考えていることや仕事論みたいなことはあんまり書かないようにしている。ほんとうのことをちゃんと書くのは難しい。適切な文脈で伝わる人にのみ伝えようと思うとさらに難しい。SNSではその困難さが、特に最近はより克明に映し出されるようになったとも感じる。

そのぶんこの、会社のウェブサイトでは真面目なことをずいぶん書きやすい。自由に書ける。長くも書ける。ここでは“感じ”も含めて、ちゃんと書ける。節目節目で会社のことを書き残しておきたい。

 

 

我々の会社は7月が決算月。先月で14期を終え、今月8月から第15期を迎える。14期のトピックでいうと

ist - Aokinodaira Fieldの開業
②BEER VISTA BREWERYの開業
③宿泊事業売上回復

の大きく三つが挙げられる。

 

まずは2022年のist - Aokinodaira Fieldの開業。開業までの経緯についてはこちらの記事にある程度書きました。今年の春にはジモコロチームがHutへの宿泊をした上で素晴らしい記事をつくってくれたのでこちらもぜひ。途中に出てくる大工さんたちの写真が最高!

▼普段の暮らしを自然の中で。快適すぎる「小屋」に泊まれるキャンプ場istのよさを伝えたい
https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/osanai02


istは2022年9月に開業したのち、一度本気の冬場(最低気温-20°!寒冷地!)のオフシーズンを挟み、今年の春からHut、ラウンジ、トイレ、シャワーなどの全設備&施設を含めフルオープン。キャンプ好きの人たちの間でも少しずつ評判が広がってきたのか、去年よりもさらに多くの人たちに利用されている様子。キャンプ場でありながらもいわゆる「超いいキャンプ場」を目指してつくられていないことはきっと訪れてくれれば伝わるんじゃないかなと思う。めちゃくちゃいい場所になっていて僕も訪れるたび清々しい気持ちになる。


そして2022年11月にはBEER VISTA BREWERYを開業した。BEER VISTA BREWERYは実はBackpackers’ Japanで一番古株のスタッフがリーダーとなって立ち上げた事業。国内のクラフトビールシーンの隆盛をいち飲み手として、そしてバーテンダーとして純粋に楽しみながら温めた企画でもあり、十数年間ラウンジでビールを提供したのちに、自らが作り手になることを選んだのだと思うとその選択にも感じ入るものがある。

11月のオープン以降、タンクなどの醸造設備の搬入と醸造免許の認可を経て、いよいよ7月からビール醸造をスタート。最初に仕込んだ4種類のビールは8/26(土)、27(日)にお披露目予定です。

さて、そして会社にとって一番インパクトがあったのはなんといっても宿泊事業の売り上げ回復である。昨年の10月に入国制限が緩和される少し前から徐々に海外ゲストの予約が増え始め、規制緩和後は一気に稼働率が上昇した。逆に言うと2020年3月以降の2年半もの間、宿泊部門の売上がコロナ以前まで回復するようなことはまったくなく、部屋も埋まらず、宿泊事業を主体としている我々の会社は毎月赤字を出し続けていた。

1年前の2022年8月ですらまだその状況だったので、コロナの規制緩和が進み訪日外国人利用が増えれば売上はかならず回復するとは解っていたものの、あまりにその好転が急だったので、戻るときはこんなに一瞬かと逆に呆気に取られもした。

2023年3月に書いた記事にもある通り、我々経営陣はリアルに倒産を感じた時期があったのでこの売上の回復については心から安心した。利益が出るようになっただけでなく、宿泊の回復がもっとずっと先だったら、先に挙げたふたつの新規事業に関しても、元々描いていた歩みを取りやめて無理やり梃入れしなければいけない場面もあっただろう。

 

こうして振り返ってみると14期はかなり怒涛の1年だった。変化という意味では創業期から考えても1、2を争うくらいなんじゃないかな。誇張ではなく、この1年は2年ぶんぐらいに感じる。

スタッフからは「宿泊事業が大変なのになんで新規事業に力を入れるのかわからない」と言われることがある。結構ある。2021年も2022年も言われたし、いまでもそういう声を聞く。これには大きく2つ回答があって、ひとつは事業にはギアがあるということ。車のギアで思い浮かべてもらっていいと思うんだけど、立ち上がりには力が掛かる。たくさんの力がいる。スピードはゆっくり。ハンドルはまだある程度自由に動かせるぶん、見定めが必要。ある程度年数を経た事業はスピードがついていて、力ももちろん必要だけど、立ち上げのときのような根の詰め方とはまた形が違う。

もうひとつはリスクヘッジである。新規事業を興して事業を多角化した理由は、コロナのような突然の外的要因で売上が低迷することがあっても、別の事業で補う、つまり支え合えるようにするため。つまり宿泊事業のためでもあるんだよ。そのうえで、どちらも調子がいいときは一緒に成長できるような親和性のある事業を掛け合わせていきたいと思っている。もちろんこの2つ以外の理由もある。新規事業に関わるスタッフ自身の成長やキャリアアップも考えているし、それぞれの事業を掛け合わせた先でBackpackers' Japanが世の中に提案できる価値が増えるような想像図もあるし、ぜんぶを簡単に説明するのは難しいけど、なにをおいても「会社を健康的に存続させるため」という理由はかなり大きい。

……なにか新しい取り組みを始めるときに「なんでそうするのかわからない!」という人はぜひその新しい取り組みの方に顔を出してほしい。そう思ってしまうのはわかる。でも、スタッフ数100人を超えたとはいえ、まだまだお互い顔の見える小さな会社だし、気になるなら会議はいつでもオブザーブできる。僕らに話に来てもらってもいい。いくらでも話すから。事業リーダーやプロジェクトメンバーが真剣に頭を悩ませながら新たにプロジェクトを起こそうとする姿を見て、新しい事業やプロジェクトを進めることを決めた理由を僕たち経営陣から聞いて、それもやっぱりわからない!と思ったらそこから話を始めよう。

 

少し話が逸れたけど、会社が取る選択について、なにか正解があるような話ではないことが多い。多すぎる……。それでも2020年からは3つの新規事業を起こして、第14期にはそのなかの2つが形になった。銀行との取引を増やして、借りる金は増えたけど、赤字に耐える体制を整えて、さらに返済計画を慎重に見直して、単月黒字化まで持ち堪えた。

宿泊施設単店単位では、これまでシフトを絞っていたところに急な稼働が重なって人員が足らなくなり、全店採用と新スタッフへのトレーニングに時間とコストと労力を掛け、ほぼ満室の稼働が続く状態でもお店が運営できるようになった。ロースタリーやistも着実に認知とファンが増え、少しずつ売上を増大させ、もうすぐ立ち上げ期を抜けようとしている。結果、ついに期を通しての黒字化も達成した。

これがBackpackers' Japanの第14期である。めちゃくちゃ素晴らしいよ……。

 

最後にもうひとつ。経営陣に新役員2人を迎えて経営体制を新しくした(記事参照)のが2022年の4月なので、第14期は、役員5人体制での、実質初めての1年でもあった。この役員増員がいろんなところで効いてると強く感じる。各施設ごとやスタッフ、いくつかのプロジェクトにとって、純粋に働きかけが増したはもちろんだけど、僕を含めた元々の役員メンバーの精神負荷軽減や経営会議での議論の多元化に大きく影響がある。簡単に言うと、気持ちが楽になった&深掘る内容も話すこともめっちゃ増えた。

僕含め、元いた役員3人は付き合いが長いこともあり、かなりオープンに意見を言う。違和感レベルで疑問を口に出して言い合うような感じが結構ある。個々人の違和感をかなり大事にしていると言ってもいい。逆に、3人がなにも疑問を抱かなかったらそのまま掘り下げられない議論もある。

2人の新役員は、これまでの会社の歩みや性格も尊重してくれつつ、なにか違和感があれば必ず口に出してリアクションしてくれるし、最後まで話し合ってくれる。なにか違和感を感じたり、どうしても譲れないこだわりがあったときにどれだけ言い合えるかはものすごく大事にしたいし、それをいかに気持ちよくやれるかは関係性によるものだと思っているのでこれはかなり嬉しい。

そうして出た議論、なんとか解決したい課題は、みんなで認識し、持ち合った時点でそのメンバーに分与される。これが結構精神的な負荷を和らげてくれる。課題は認識するのがまず第一歩。それを信頼できる人と持ち合えれば気持ちはだいぶ落ち着く。あとは観点を持ち合って具体案を考えればいい。

前述したように、創業からの13年でもかなり大変だった14期。新役員2人の力もあって、僕ら役員陣の気持ちの上でもなんとか乗り越えられた。今期終わって胸を撫で下ろしたっていうのは、自分たちが、折れずに希望を持って続けられてるぞって意味でもあるだよね。経営陣だから当たり前ではなくて、落ちることがあるのも折れることがあるのも一緒で。むしろ、落ちたときに頼れる人が、気をつけないと、ちょっと少ない。だからこそ一緒に目線を合わせて仕事ができる人たちの存在が必要。

今期も来期も、まだもうちょっと踏ん張りどきが続きそうだけど、引き続きいっぱい話し合って、(話し合い多すぎて疲弊しそうだったらそれも議題に出して)頑張っていこう。頑張っていきたい。

 

 

(写真で振り返る第14期)


後にBEER VISTA BREWERYとしてオープンする物件・2022年8月

 



ist ・「Hut -nest-」施工 / ラウンジ左官

 

ist・オープニングイベント「Weave」前日

 

 
ist・オープニングパーティー「Weave」大雨からの快晴

 


ゲストハウスtoco.・塩満インタビュー

 


Nui.・2022年9月のバーラウンジ

 


BEER VISTA BREWERY・改装風景

 


ist・秋のist&スタッフ嶺翔

 


BEER VISTA BREWERY・施工スタッフ&関係者パーティー



Len・HASHIMOTO NAOKO solo exhibition 「crossing」

 


佐渡出張・冬の宿根木

 


福岡出張・tokyobike plus fukuoka

 


CITAN・KAKUOZAN LARDER ”CHICKEN OVER RICE”POPUP SHOP

 


Nui.・スタッフ写真

 


BERTH COFFEE・中期経営計画MTG

 


ist・中期経営計画MTG

 

BEER VISTA BREWERY・2023年3月

 



CITAN・「大吉」Release 記念パーティー「Ep1 "大安"」




BEER VISTA BREWERY・タンク搬入

 


ist・「Weave '23」


 
BEER VISTA BREWERY・醸造スタート




京都出張・2023年8月

 

Written by

石崎 嵩人

1985年栃木県生まれ。Backpackers' Japan取締役CBO。2010年2月にその他創業メンバーと共にBackpackers’ Japanを設立。CBOとしてコーポレートアイデンティティ設計やブランド構築、事業ごとのコンセプト立案やクリエイティブディレクションを担当。個人の活動として、出版サークル「麓(ふもと)出版」、ラジオ「ただいま発酵中」等。